40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文08-16:感染症は世界史を動かす

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※2008年4月11日のYahoo!ブログを再掲。

 

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本書は感染症を主体にして世界史を紐解くという野心的な試み。とはいえ、全ての感染症とあらゆる歴史の関連を考えるとなると、とんでもなく膨大になるので、ペスト、梅毒、結核、インフルエンザと代表的な感染症を選定し、それにまつわる事件や出来事、そして感染した歴史上の人物などに焦点を当てている。

残念ながら世界史に疎いし、あまりに古い出来事(16世紀以前)にはどうも興味を抱けないので、個人的に面白いなと思った部分をピックアップして感想文を書いてみたい。
ペストはもはやおとぎ話っぽく感じてしまうので、パス。

まず梅毒。言わずと知れた性感染症の代表格。感染すると最終的には神経にも及ぶので、精神錯乱症状まで生じる。梅毒は王宮にも広まり(それだけ頽廃的だった)、その結果生じる精神錯乱は国を大混乱に陥れていたとのこと。初めて知ったのは、ブラッディ・マリーのモデルといわれるメアリー1世(1516-1558)も先天性梅毒にかかっていたらしいとのこと(父親のヘンリー8世が梅毒だった)。病気だけのせいにするのは不適切かも知れないけれど、そう考えると、彼女の生涯も理解できるような気がする。これからブラッディ・マリーは少し悲しい味に思えるな。

梅毒についてちょっと補足しておくと、マラリア療法という今から考えると何とも横着な治療法が開発された。早い話が、梅毒患者をマラリアに感染させて、高熱になって、すると梅毒の菌がその熱で死んで、その後にマラリアを治すっていう、毒をもって毒を制す的な治療法。ちなみに、この治療法の発明で、1927年にウィーンの精神科医ユリウス・ワグナー・ヤウレッグがノーベル賞を受賞している。精神科医ノーベル賞を受賞したのは、後にも先にもこれ一つ。この話は本書にはありません。念のため。

続いて、結核。梅毒って言うと何か汚らわしい感じがするけれど、結核だと悪い印象があまりない。日本でも馴染みのある病気で、正岡子規がその典型かな。雅号の子規っていうのは、ホトトギスのことで、血を吐くまで鳴き続けるということで、皮肉って名付けたとのこと。それから樋口一葉結核だった。5千円札でたまにお目にかかるけれど、あの姿は病気で辛いお姿のよう。5千円札も悲哀を感じるね。

そして、現代でも誰しもが罹ったことのあるインフルエンザ。1918~19年にパンデミックを起こしたスペインかぜは、感染者6億人、死者4~5千万人だった。

当時、全人類は8~12億人だったらしいので、半分以上が感染したらしい。人間の半分がかぜで倒れる状況は、想像するのも恐ろしいけれど、社会活動のほとんどが機能不全に陥ることを意味する。病院は患者で溢れかえり、交通機関は麻痺し、運送業も動かなくなる。運搬が滞るので、小売店から食料が消え、さらに大パニックが起きる。

現代でもその危険性に変わりはない。新型インフルエンザが起きることが予想されている。起きるかどうかではなく、いつ起きるかが争点になっていて、起きることを前提に対策が考えられている。新型インフルエンザの大発生を予防するため、起きてしまったときのためにどういう備えが必要か、その点も詳しく本書は記している。

感染症は、個人が気をつければどうにかなるという病気ではない。他人から感染する、他人に感染させる、その性質を互いに把握し、適切に行動しなければ、対応できない。
行政の関与が欠かせないのは言うまでもない。過度の個人主義が浸透しつつある現代において、もっとも不得手な病気といえるだろう。

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(感想文の感想など)

新型コロナウイルスで世界中がパニックになっている様子を見ると、人間はあまり進歩していないなと感じる。

感染症対策に行政の関与が不可欠だが、個人主義の現代においてそれは困難であろうという私の予見は、見事に正鵠を射ていると。

大きな歴史の流れを俯瞰的に見ると、感染症は世界史を動かしているのかもしれないが、同時代の最中にいると、感染症は経済を動かしていると強く感じる。