40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-05:貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える

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※2013年1月31日のYahoo!ブログを再掲。

 

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2010年読書感想文のまとめとランキングを振り返ると、貧困について考えていた時期があった。今思うと、何となく日本全体が暗い感じだった。今もそんなには変わっていないんだろうけれど。

経済学というぼくにとって新しい学問に触れて、改めて貧困問題について経済学の視点から考えてみたいと思った。そうして行き着いたのが本書。

さっそく、気になった箇所を引用してみよう。

「貧乏人の経済学」とは結局のところ、貧乏な人の暮らしや選択が、世界の貧困と戦う方法について教えてくれることについての本です。

ふむふむ。生産性が上がり、取引は活発化しているのにも関わらず、未だに貧しい人は多い。貧困問題は全く解決していないのだ。

本書のメッセージは、貧困の罠をはるかに超えるものです。これから見るように、専門家、援助関係者、あるいは地元政策立案者のイデオロギーideology、無知ignorance、惰性inertia―三つのI―が政策の失敗や援助の低効果の原因となっています。

イデオロギーideology、無知ignorance、惰性inertiaという3つのI。inertia(イナーシャ)が最も馴染みのない単語。初めて見たかも。貧困問題を解決しようとして失敗した例は無数にある。成功していたら今みたいになってない。

補助金を増やしても、食生活の改善促進には役立ちません。主な問題がカロリー量ではなく、他の栄養素だからです。(中略)貧乏な人々は収入が増えても食事の量や質を改善したりしません。食べ物と競合する圧力や欲望が多すぎるからです。

貧しくて食べ物がないから、お金をあげたら、食べ物じゃないものを買う。こういうこと。食べ物が買えないほど貧しい人は、もちろん他の欲しい物も買えてない。真っ先に食べ物を買うと思ったらそうじゃないのだ。

自分の健康についての正しい決断を責任もって下せるほどに賢く、忍耐強く、知識のある人など、だれもいないということを認識すべきです。

栄養バランスとかについてちゃんと考えられるのは、知識があるからとか、教育がちゃんとしているからというのではなくって、それだけ余裕があるってことなのだ。腹減ってそうだからお金あげたら、服買った。バカじゃないのか、というとそうではない。食べ物が最優先課題というのは、富める者の一方的な思い込みに過ぎないのだ。

「こんな生徒がほしい」と自分たちが思っているような生徒ではなく、現在実際に抱えている生徒に貢献すべきだと学校が認識することこそ、すべての子供に機会を与える学校制度を持つための第一歩なのです。

学校を作っても生徒が来ない。親が許さない。子どもも行きたくない。短期的には学校に行かない方が得だからだ。学校側も生徒をより好みする。順序が逆なのだ。

(インドでは、)報告によれば、1976年から77年のあいだに825万人が不妊手術を受けたとされ、(中略)76年末までにはインドの全夫婦の21%が不妊手術を受けていたといいます。

ぎょええ。知らなかった。信じられないほどの人数が不妊手術を受けていたんだ。極端な人口を減らす政策もあったものだ。

マイクロファイナンス運動は、困難はあっても貧乏な人に貸すのは可能だということを実証しました。(中略)でも、貧乏人への融資を成功に導いたプログラムの構造そのものが、もっと大きな事業の創設と資金提供への踏み台になれない原因になっています。発展途上国の金融にとって、次の大きな挑戦は中規模企業への資金提供手法を見つけることです。

ムハマド・ユヌス自伝(感想文09-54)で感激したマイクロファイナンスのこと。でもこれは完璧な方策というわけではない。なぜなら大きな事業の創設と資金提供への踏み台になれていないからだ。小さなお店を作るには良いけれど、発展はできない。さらなる大事業への転換を目指せる新しい仕組みが必要なんだ。

あとがきからも、引用してみよう。

本書の多くの知見は、かなり意外なものだ。たとえば、

  • 飢えている人でもカロリー増よりおいしいものやテレビのほうを優先する。
  • 就学率が上がらないのは、学校がないからではない。むしろ子ども自身や親が学校に行きたがらない/行かせたがらないから。
  • マイクロファイナンスは悪くはないが、一般に言われるほどすごいものでもない。
  • 高利貸しは悪らつな強突く張りでは(必ずしも)ない。
  • 途上国に多い作りかけの家は、実は貯蓄手段。

なるほど。貧困にある意外な事実を初めて知った。

貧しい国がその状況から抜け出せないのは、どうしてか。一筋縄ではいかないけれど、それでも効果的な方法が実証的に示されるようになってきた。実証は非常に大事。効果があるのか、ないのか、効果を生み出すにはどうしらいいのか、効果を下げる要因は何なのか。こういった研究が徐々に進んできている。

貧乏人や障害者など、困っている人を助けるための経済学の発展が望まれるし、非常に興味深い。そのためにも、様々な取り組みについて実証的に分析され、批判されることが必要だろう。

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(感想文の感想など)

本書の著者はエステル・デュフロとアビジット・バナジー。二人は経済学者であり、夫妻だ。そして、2019年のノーベル経済学賞を受賞したことで、本書は話題となった。

貧困問題は古くからあるが、全く解決していない。2人は医薬品の治験のようにランダム化比較試験(RCT)をフィールドに導入し、実証実験で貧困対策プログラムの有効性を明らかにしようとした。

昔からある対策が本当に正しいのか、その根拠は何かと疑うのは存外難しいものだ。またその根拠が疑わしいものであっても、新しい対策を現場に導入するのもまた難しい。これまでのやり方を変えるインセンティブが機能しないと、変えられないのだ。

貧困の経済学でノーベル賞が授与されるとは思ってもいなかった。取るとしてももっと先のことだと思っていた。2015年のノーベル医学生理学賞を授与されたトゥ・ヨウヨウさんのマラリア治療薬開発同様、ノーベル委員会からのメッセージではないだろうか。

先進国をさらに富ますような金融手法の開発や、先進国の高齢者の寿命を数ヶ月伸ばす薬の開発ではなく、途上国の貧困や感染症問題の解決に資する研究に、優秀な研究者が挑戦し、そして克服することを期待しているのだと信じている。