40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文20-04:セレンゲティ・ルール 生命はいかに調節されるか

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セレンゲティとは、ウィキペディアによると

セレンゲティ国立公園は、タンザニア連合共和国北部のマラ州・アルーシャ州・シニャンガ州にまたがる、自然保護を目的とした国立公園。アフリカで一番良く知られた国立公園の1つ。1981年にユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録された。セレンゲティとはマサイ語で「果てしなく広がる平原」の意。

とのこと。

思い返せば、私が大学4年生のときに、タンザニアの隣国ケニアに行った。初の海外旅行だった。マサイマラ国立保護区で見たライオン、シマウマ、ゾウやカバなどの大型哺乳類、ナクル湖で見たおびただしい数のフラミンゴなどは、今でも鮮明に思い出せる。機会があれば、また行ってみたいものだ。

そんな国立公園の名称であるセレンゲティにルールがついたのが本書のタイトルだ。

さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同じように、一定の区域で生息可能な動植物の種類や個体数を調節するルールが存在する」という発見に至った。私はこのような生態系レベルのルールを「セレンゲティ・ルール」と呼ぶ。(p.18-19

生態系レベルのルールがセレンゲティ・ルールなのだ。

これらのルールは、生命のあり方を理解しようとする長年の、そして現在も続く努力を通じて得られた一つの報酬なのであり、本書を執筆した目的の一つは、この探求の努力と、それによって得られる喜びを生き生きと描くことにある。(中略)生命は「ほぼ無限に近い多様性をケースバイケースで示す」かのように見える。この種の見方が正しくないことを示すのが、本書のもう一つの目的である。(p.23

多種多様な生物が生息し、食物連鎖、共生、寄生などで互いに影響を与え合う。気温や降水量などの環境変化もある。さぞや複雑で捉えようのない現象と思われがちだが、そうではないのだ。

生命は通常、分子レベルから生態系のレベルに至るまで、私たちが考えている以上に長い、多数のリンクから構成される原因と結果の連鎖に支配されている。あらゆるレベルにおける調節のルールを理解し、それに介入するためには、私たちは個々のリンクと、それらの相互作用の本質について知っておく必要がある。(p.92

相互作用の本質。本書ではカギとなる論理が示されている。訳者あとがきから引用しよう。

(本書の)主張するところはきわめてシンプルで、「遺伝子レベルから生態系のレベルに至るまで、抑制の抑制という二重否定論理に基づく調節メカニズムを介して、システムの安定性が保たれている」という理論的側面と「蝕まれた生態系はいかに回復できるか」という実践的側面である。(p.293

抑制の抑制がシステムの安定性に寄与しているのだ。抑制の抑制と聞いて、p53遺伝子を思い出す人もいるのではないか。

分子生物学の世界と生態系の世界は似ているというのが本書の主題の一つであるが、まさに抑制の抑制、二重否定論理が、異なる位相の共通原理になっている(かもしれない)のだ。

分子の世界と宇宙の世界が量子力学でつながるように、分子生物学と生態系もつながるのだろうか。なかなかに興味深い一冊だった。