40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-35:静かなる大恐慌

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※2013年6月24日のYahoo!ブログを再掲。

 

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今、世界の経済は揺らいでいる。日本ではちょっとした株価の乱高下に過剰に反応し、ヨーロッパの小国の財政危機が世界経済に飛び火する。

本書は私が今まで読んできた経済学の本とは少し毛色が異っている。本書のキモを簡単にまとめると、極めて狭い意味での資本主義は、社会の「資本」以外の価値を切り捨ててしまうのではないか、ということだと思う。

ウォーラーステイン史的システムとしての資本主義(感想文09-56)参考)やサンデル(これからの「正義」の話をしよう(感想文10-67)参照)のテーマにも通じるものがある。

ということで、要するに結構大きな話。単純な経済学の枠を超えている。整理するのが難しいけれど、気になる箇所を挙げておこう。

この本では、今、まさに進行中の経済危機について分析します。しかし、ゴールはその先にあります。この進行する危機のなかで、世界はどのように姿を変えるのか。今後、10年、20年で生じるであろう歴史の大きな変化について、中長期の視点から考える、というのが本書の目的です。

これから世界に大きな変化が起きるんじゃなかろうかと予感している人は少なくないだろう。そして決してハッピーな方に変化するとは思っていないだろう。そしてその変化の背景にあるのがグローバル化だ。

数字上は小さく見える事件でも、危機の伝染で経済システムが麻痺し、その後の展開によっては世界経済を崩壊させるに十分なインパクトをもってしまう。この脆弱性こそグローバル経済の大きな問題といえます。

グローバル化と言うと会社の公用語を英語にするとか、世界の安い労働力を利用して製品を生産して世界中に売りまくるとかそういうイメージがあって、貿易や取引が増えて、ハッピーになりそうだけれど、そこには欠点もある。それは脆弱性とのこと。

私が強調したいのは、第一次グローバル化が、第一次大戦第二次世界大戦という二度の大戦争によって終わったという事実です。(中略)このことは、現在のグローバル化、つまり第二次グローバル化の行きつく先を考えるうえで、きわめて示唆的です。(中略)グローバル化は決して一直線に進むわけではなく、その過程で国家の対立をむしろ高めてしまう傾向にあるということ。グローバル化は世界を自動的に繁栄と平和に導くとは限らないということ。100年前にケインズが直観したのは、グローバル経済のそのような危うい性質でした。

その昔、『文明の衝突』という本が流行った。調べてみると出版されたのが1996年。もう20年近く経過する。実際に飛行機がビルに突っ込んだり、無人爆撃機が爆弾の雨を降らせたり、アラブで革命が起きたりしている。世界は全く平和に向かっていない。それでも戦争は遠い海の向こうで起きていて、局所的だ。果たしてグローバル経済は国家の対立に繋がっているのだろうか。

国家は単なる経済的な存在ではなく、他の国家に対抗して国益を守ろうとする政治的・軍事的な存在でもあります。そう考えれば、自由資本主義とはいえ、一皮剥けば国家資本主義的な側面をかなりもっているのです。

なるほど。そして国家とは何か。国益とは何か。各国の資本の蓄積の結果、国家の対立が生まれるのだろうか。あるいは、国家の対立が、少数の国の資本の蓄積に貢献しているのかもしれない。

ここで着目したいのは、グローバル化のもとで生活が不安定になった労働者の不満を抑えるために、政府の規模は大きくなる傾向にある、という研究です。政治学者のデイヴィッド・キャメロンは、(中略)貿易依存度と政府支出の大きさが比例する、という興味深い結論を導きました。

ふむふむ。非常に興味深い。小さな政府が良いものだという思想は、グローバル経済のもとでは必ずしも通用しない。日本も大きな政府に戻りつつあるように感じる。個人的には余計な規制さえしなければ良いんだけれど。

ハーバード大学の経済学者ダニ・ロドリックは近著『グローバリゼーション・パラドックス-民主主義と世界経済の未来』のなかで、(中略)グローバル化、国家主権、民主政治の三つの要素のうち、論理的にふたつしか選択できない、といっています。

うーむ。だんだんと難しくなってきた。この本を読んでみたい。と思ったけれど、邦訳されてないっぽい。残念…。

主権国家と結びついたナショナリズムは、いちど成立すると簡単には消えません。事実、国家の数は減る気配がありません。第二次世界大戦後には、50ほどだった独立国家の数は、現在では190を超えています。

この指摘は面白い。西ドイツと東ドイツのようにくっついた事例は珍しく、むしろソ連崩壊などで国の数は増えている。アフリカとかユーゴとかあの辺はカオスだ。

不公正の拡大や、それによる政治的不安定こそ、これから各国が克服しなければならない、資本主義のもっとも大きな課題なのです。「資本主義」という観点からグローバル化を擁護する人々は、市場の効率性を優先するあまり、後世や安定といった、社会の別の価値を切り捨ててしまう傾向にあります。

資本主義が不公正を生み出し、政治的に不安定になる。でも資本主義は政治すら飲み込むほど強烈なシステムだと思う。価値はしばしば衝突する。その選択は資本が増大するかどうかで判断されることが多いだろう。これが果たして間違っているのだろうか。

これから必要なのは、こうした貨幣を必ずしも媒介としないかたちで増えたり減ったりしている資本に注目して、その蓄積が我々の生活にどんな便益を-あるいは不便益を-もたらしているのかを正当に評価することにある、というのが私の考えです。経済社会の新たなビジョンを考えるには、こうした資本概念の拡張が不可欠になるでしょう。

これが本書が示す大事なポイントだ。私たちは「資本」を非常に狭く取り扱っているのかもしれない。例えば、『共同体の人間関係や組織の信頼』ということも資本にカウントできるかもしれない。定量的に取り扱うのが難しいかもしれないけれど、それでもそういったことが全く大事じゃないとドライに考えている人は少数派だろう。

資本主義とは異なるシステムを構築するのは難しい。しかし、資本という概念の拡張ならできるかもしれない。これからの世界の変化を考えていく上で、何を資本として考えるかは極めて重要なテーマになるだろう。

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(感想文の感想など)

資本という概念の拡張かぁ。こんなことを考えていたんだな。

本書の『自由資本主義とはいえ、一皮剥けば国家資本主義的な側面をかなりもっている』という言説は、今だと強烈な現実味を帯びている。

グローバル経済が押し進み、経済格差が生まれ、国家の虚構性と脆弱性が顕になり、ナショナリズムが台頭するようになった。グローバル企業を多く生み出してきたアメリカでさえ、トランプが大統領となり、イギリスはEUから脱退する。

貨幣経済そのものについて、関連する本を読んでいないが、電子マネーや仮想通貨の登場は、さらに国家基盤を根底から揺さぶっていくだろう。