40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文20-19:夜遊びの経済学

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タイトル的には夜の経済学(感想文14-60)を思い出す。その二番煎じ的な本かと思いきや、そうではない。

本書はそのような我が国に未だ根強く残るナイトタイムエコノミーに対する様々な偏見を払拭し、その経済力の大きさと振興の必要性をご理解いただくことを目的として執筆したものである。(p.10

夜の経済学(感想文14-60)は、データが少ないがために実証主義の光を当てにくいフーゾク産業に切り込んでいたのに対して、本書はナイトタイムエコノミーという聞き慣れない用語が、生産性向上に向けて重要な振興策だと主張している。よってピンクな話が中心というわけでは決してない。

ナイトタイムエコノミーに対する偏見というのは、要するに「夜は寝るものだ」という言説に尽きる。読み始めた時には、まあ、夜は寝たいよね、とか思っていたのだが、読み進めていくうちに、なるほど、そいういう考え方かと納得できた。

2部経済たるナイトタイムエコノミーは我が国においては未だブルーオーシャンとも呼べる未開拓な成長分野であるといえる。(p.112

歌舞伎町のキャバクラやホストクラブは競争が激しそうではあるが、存外、夜の時間帯は業種の多様性が乏しい。もっと夜を楽しむ施設がたくさんあって良いはずだ。コンビニとかドン・キホーテとか24時間スーパーとかあるのだけれど、遊ぶための施設ではない。

演劇、スポーツ観戦といった伝統的なものだけでなく、ロボットレストランといった外国人観光客にウケる施設やイベントが、工夫次第でいくつも新しく生み出すことができるだろう。

現代社会の消費は「可処分『所得』の獲得競争」であると同時に、消費者の持つ「可処分『時間』の獲得競争」である。(中略)心の豊かさやそこで提供される娯楽性などを求めて行われる消費に関しては「消費意欲」と「予算」があったとしても、必ずしもそこに消費が発生するわけではない。(中略)「消費機会」がなければその消費は発生し得ないのである。(p.23

欲しいと思ったモノ(あるいはサービス)を欲しいと思った時に提供できないと、いくら安くったって売れやしない。可処分時間の奪い合いとあるが、夜の時間は空いている。後は、提供する仕組みを作るだけだ。

ナイトタイムエコノミーの振興は、現在「遊休」となっている都市資産を活用し、新たな消費機会を創出し、域内事業者の収益性向上を実現する施策である。また、この施策は域内不動産の価値を高めながら、同時にそこから期待される固定資産座や都市計画税としての地域財源の向上を目指すという地域経済にとって非常によい循環を期待できる都市政策でもある。(p.223

都市政策と強調しているのは、単純に夜に営業する施設を作れば解決するというわけではないことを意味している。法規制、公共交通機関の運行、利便性、働き方、遊び方、地域住民との関係など、多岐にわたる様々なことを総合的に考えないといけない。

施設型ホスピタリティ産業にとって、労働生産性を高めそこから獲得される利益を最大化する唯一の手法は施設や人員が「遊休状態」でダブついている時間帯を限りなく減らすこと、すなわち需要サイドの繁閑差を低減してゆくことである。(p.122

稼働していない施設を繁閑差なくなるべく稼働させるというのは、カーシェアリングや民泊とも親和性が高い考え方だろう。日が昇り沈むまで働き夜は寝るみたいな生活は、そりゃあ、人間の健康には良いかもしれないが、あまりにも計画経済過ぎて、むしろ現代の感覚で言えば人間性を失っているようにすら思える。

そう遠くない将来には、生産性向上のために遊休人材を減らすことが求められるようになるだろう。それは朝から晩まで死ぬ気で働けみたいな非人道的な話ではなく、1つの会社に縛られたり、解雇できないがために窓際族が発生するような事態を避けるということだろう。

仕事に没頭し、稼いだカネで遊びに没頭し、充実した人生を過ごす。これがまさに生産性の向上であり、好循環につながる。一人の人間は生産者でもあり消費者でもあるのだ。

もう一つ大事なポイントは外国人観光客の存在だ。驚くほどたくさんの外国人が日本に来るようになった。為替相場も影響しているだろうが、治安が良く、アジア圏でも特殊な文化があり、また地方都市にも異なった魅力があるのだろう。

このように現在、非常に好調な観光政策であるが、安倍政権はこれまでの政権とは全く異なる新たな観光政策を実行し始めている。それが「稼ぐ観光」の実現である。(p.61

これはなるほどと思った。もともとは旧運輸省所管の交通政策とその評価指標である客数から、経済政策とその評価指標である観光消費と経済波及効果へとシフトしたのだ。どうやったらお金を落としていくのか、どうやったらまた来てくれるようになるのか、一過性で終わらせず、観光客が真に満足し、対価を支払いたくなるようなさらなる方策として、ナイトタイムエコノミーの振興が期待できる。

最後にカジノを含む統合型リゾートIR)であるが、これもナイトタイムエコノミーの一環として考えられる。しかし、

統合型リゾートが地域に導入されれば、自然発生的に周辺地域にその波及的な経済効果が及ぶわけではないということを前提として、地域での導入計画を立てる必要がある。(p.202

とあるように、結局は統合型リゾート施設はその施設内でお金を落としてもらうような仕組みにならざるを得ず、カジノができたところで、例えば周辺地域のレストランが潤うわけではない。ホテルがあり、劇場があり、カジノがあり、レストランが内包されたような大型施設であれば、その中で完結してしまう。むしろ周辺地域のサービス業にとってはマイナスとなる。

他方で、多くの雇用を生み出すことは事実だろう。雇用が増えれば、住民が増え、その地方経済は活気づく。もちろん元から住んでいた人とニューカマーとの間でいざこざは発生するだろう。しかし雇用が増える機会はそうはない。地方行政が誘致したがるのはもっともだ。

しかし、カジノなら儲かるという甘い幻想は捨てたほうが良い。本書で載っている失敗事例のように、どうやれば儲かるかを真剣に考えなければ、バブル時代のリゾート施設の二の舞になる。

本書は、ナイトタイムというなかなか認知されにくく、かつ、ポジティブに捉えられにくい夜の時間帯の活用を生産性向上、経済政策、都市政策と絡めて、成功事例と失敗事例を紹介しつつ、丁寧に描いている。

まだ小学生の子どもを2人抱える私は、生産者としても消費者としてもナイトタイムエコノミーに貢献しにくい(妻の了承を得にくい)が、改めて生産性や働き方改革IRについて考える良いきっかけになった。

カジノなんて虚業だとか夜は寝るべきだとかギャンブルは犯罪だとか規範的なご意見は分かるが、分かった上で改めて考えてみませんかと。人生を楽しむために、充実させるためにどうしましょうかと。こう考えていくと、ナイトタイムエコノミー産業が活性化していけば、ぐっすり快眠産業も活性化するかもね。