40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-29:イノベーションのジレンマ

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※2010年4月23日にYahoo!ブログに掲載したものを再掲。

 

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この4月に異動して、仕事の内容が変わった。どうやらイノベーションに関することを担当するようだ。はたと困った。まったく土地感がないばかりか、そもそもイノベーションということの本質をまったく把握していない。

ということで、しばらくの間、イノベーション関連の本を読むことにした。せっかくなのでそれをまとめて、こうしていつものブログに載っけてみたい。

ブログは限りなくプライベートな営みであるが、たまには仕事に結びつけてみよう。とはいえあくまで試みであって、いつそれを止めてしまうかは分からない。とにかくこれが第一弾。

実は本書はずっと読んでみたかった。昨年からちょいちょい進めていた経済に関する知識の蓄積の流れで、この本の存在を知ってはいた。まあ、あまりに手広くジャンルを問わずに多読しているので、本書に到達してなかった。うん、前置きはこのくらいにしておこう。

率直に言って久しぶりに気持ちの良い知的興奮を味わえた本だった。

優良企業がイノベーションでつまずく。それはなぜか。特に日本の大手の企業は失敗している。そこには非常にシンプルな答えがあった。

イノベーションには持続的イノベーションと破壊的イノベーションの二つがある。

時として「破壊的技術」が現れる。これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーションである。皮肉なことに、(中略)大手企業を失敗に導いたのは破壊的技術にほかならない。

そうなのだ。企業はより良い製品を生み出そうと、研究開発を進め、性能は向上していく。精度が高く、高機能で、時には高価になってしまう。ところがそこに落とし穴が待っている。

歴史的にみて、このような性能の供給過剰が発生すると、破壊的技術が出現し、確立された市場を下から侵食する可能性が出てくる。

需要よりも高い性能が供給されるようになってしまうと、破壊的技術に足元を救われてしまう。性能は低いが、より安価で、利便性の高いイノベーションにその優位を奪われてしまう。

「顧客の声に耳を傾けよ」というスローガンがよく使われるが、このアドバイスはいつも正しいとは限らないようだ。むしろ顧客は、メーカーを持続的イノベーションに向かわせ、破壊的イノベーションのリーダーシップを失わせ、率直に言えば誤った方向に導くことがある。

しかし、なかなか大手企業は破壊的イノベーションに対応できない。しかも実直で確実で正当な経営それ自体が、足かせになってしまう。顧客の声は破壊的イノベーションにはまったく役に立たない。それどころか、失敗に導くかもしれない。なぜなら、

破壊的製品がどのように、どれだけの量が使われるか、そもそも使われるかどうかは、使ってみるまで誰にも、企業にも顧客にも分からない。

そうなんだ。破壊的製品の市場はまったく分からない。市場があるかどうかすら怪しい。そういう状況に大手企業は対応できない。それは安定的経営を志向しているからだ。安定的経営の志向が経営の失敗につながる。まさにジレンマ。どうしたら抜け出せるのか。詳しいことは是非とも本書を読んで欲しい。

さて、本書で印象に残った話をピックアップしてみる。

まずは人工インシュリンのこと。新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち(感想文08-66)でも取り上げた人工インシュリン。イーライ・リリー社が開発した遺伝子組換え技術によって作られた純度100%のインシュリン(商品名はヒューマリン)だ。新薬誕生ではものすごい発明品のように喧伝されていた(実際にスゴイ)けれど、商品としては今ひとつだったそうな。

インシュリンは既に十分なほどその純度は高く、既存薬で効果の薄い糖尿病患者はごくわずかだった。純度を高めるという持続的イノベーションは、ヒューマリンで限界に達したが、市場はヒューマリンに対しては冷ややかであった。その市場をかっさらったのが、デンマークの小さなノボというメーカーで、ペン型の利便性の高いインシュリン投与キットが爆発的に売れたとのこと。

この逸話は非常に興味深い。遺伝子組換え技術は、今でも科学に貢献しているし、生命科学の分野では欠かすことのできない技術といえる。しかし、その素晴らしい技術であっても、市場では失敗してしまうこともあるのだ。

もう一つ、印象的だったのが、電気自動車。これからまさに破壊的イノベーションになるかもしれない逸材だ。著者のクリステンセンが自動車メーカーの社員として、どのようにこの破壊的技術で成功をおさめるか思考実験をしている。なかなかに面白い。

電気自動車が加速する!でも登場したように、これからの自動車の主流は電気自動車になるかもしれない。しかし、それはエコカー減税があるからとか、地球環境のためとか、はたまたもう自家用車にガソリン車は販売してはダメという規制によるからではない。

電気自動車は、破壊的イノベーションだ(かもしれない)からだ。電気自動車は、ガソリン車に比べて、加速力が低く、走行距離は短く、最高速度も遅い。今の自動車ユーザーの視点ではさっぱり売れない。しかし、この性能の低さが売りになるかもしれない。スピードがたいして出ないことは、ぶつかって

もたいした被害を起こさないともいえる。安全な乗り物として、高齢者や未成年者向けに市場があるかもしれない。

電気自動車は、ガソリン車とまったく異なる構造を持ちうる。操作方法がまったく異なるため、自動車教習や年齢制限を変えてしまう可能性を有している。ガソリン車であるからこそ構築されたシステムがことごとく破壊されるかもしれない。でもどうなってしまうか、今から想像するのは不可能だ。

破壊的イノベーションの到来が待ち遠しい。ちょっとばかりイノベーションの本質が分かった気になった。

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(感想文の感想など)

本書の著者であるクレイトン・クリステンセンは2020年1月23日にお亡くなりになった。

色々とイノベーションに関する本を読んだけれど、この本が最も分かりやすかった。結局はできた製品がどう使われるかってことなんだけれど、それを事前に予期するのは難しいし、たくさんいるユーザーにこれまた変態的な発想で使い出すやつがいて、こうして世の中が変わっていくのだろう。

イノベーションの起こし方(方法論)の言説が多いけれど、イノベーションの起こされ方(結果論)からは何を学べば良いんだろうか。売れる売れないは気にせず、商品を市場に出してしまえってことなのだろうか。そうなるとやっぱり大企業は遅かれ早かれ衰退していくんだろうな。