40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文18-21:最強の経営者 小説・樋口廣太郎―アサヒビールを再生させた男

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※2018年6月12日のYahoo!ブログを再掲
 
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タイトルが気になって読んでみた本。樋口廣太郎(1926-2012)は実在する人物。残念ながら樋口さんはすでにお亡くなりになっている。
同い年生まれは、森英恵菅井きん渡邉恒雄マリリン・モンローフィデル・カストロ江沢民星新一小柴昌俊ミシェル・フーコーといった面々。まだご存命の方も歴史上の人物も入り混じっているのだから、不思議な感じ。
これまでに経営者が主人公の本を読んだことがある。川崎製鉄(現JFEスチール)の創業者である西山弥太郎を主人公とした鉄のあけぼの、出光興産創業者の出光佐三をモデルとした海賊と呼ばれた男、カシオ社を設立した樫尾忠雄・俊雄・和雄・幸雄の電卓四兄弟あたりがそうかな。毛色が違うけれど、しんがり 山一證券 最後の12人も広くは経営モノに分類できるかもしれない。
前の部署では社長や元社長と話す機会が多かった。私はそこの会社の従業員ではないので、現実と乖離があったり、脚色されているかもしれないけれど、ビジョンやマネジメントなどを経営者の口から直接に聞くことができたのは貴重な経験であった。
さて、著名な経済小説家である高杉良さんが「最強の」と冠を付けた樋口廣太郎さんは真に最強の経営者だったのだろうか。正直なところよく分からないというのが、素直な読後感だ。
そもそも本書は、樋口廣太郎の一生を描いているわけではないため、なぜ「瞬間湯沸かし器」とまで言われるほど、強烈でパワフルな人間が形成されたかについては、ほとんど描かれてはいない。
物語は、樋口さんが住友銀行での頭取争いに敗れ、当時は「夕日ビール」とまで揶揄され、事業が崖っぷち状態のアサヒビールに社長として就任する少し前から始まる。
その後、大規模な設備投資、スーパードライの大ヒット、古いビールを全て回収・廃棄するという大胆な策を講じることによって、アサヒビール社が国内ビールのトップシェアを奪うまでに回復を果たす。
しかし、果たして最強の経営者なのだろうか。強運の経営者というのであれば、まあ、そのとおりだなと思うのだけれど。
本書で好きなシーンがある。樋口社長が新社長としてアサヒビール生え抜きの瀧澤勲夫(実名は瀬戸雄三)を指名する。

「はい。お受けします。一所懸命頑張ります。」樋口はじろっとした目を瀧澤に流して、「戻ってよろしい」と告げた。そして、頃合いを見計らって瀧澤のデスクに電話をかけた。「いいか。こういう時はな、一晩考えさせて下さいって言うのが礼儀だ」「失礼しました。申し訳ありません」「分かればよろしい」「はい」(p.222-223)

という感じで、かなり厳しいことを言う。社長になれと言って、一所懸命頑張ると答えたら、即答するなと文句を言われるのだ。たまったものじゃない。他にも今だとパワハラで問題になりそうな場面が多々ある。

当時はこれくらいのことは当たり前だったのかもしれない。時代が変わってしまっているので、樋口さんを経営者のモデルとして、現代に当てはめるのは適切ではないだろう。
では、経営者としての樋口さんと一緒に働きたいかと言われると、スゴい人だとは思うけれど、できれば適度な距離をおきたいな、というのが素直な気持ちだ。とはいえ、特に樋口さんを素晴らしいと思うのは、後釜を銀行員ではなく、アサヒビールの社員を引き上げたという判断を下したことだ。自分の影響力を残そうとするならば、住友銀行の人間を連れてくるという手もあったかもしれないが、現場のモチベーションを考えてあえてそうしなかったのは英断であったと思う。
少しビールについて書いて終わりにしたい。月刊BOSS 2015年4月号に載っているグラフが分かりやすいが、アサヒ・スーパードライの登場がいかにビールのシェアを大きく変えてしまったのかが分かる。私はプレミアム・モルツ派なので、実のところ、長らくスーパードライを飲んでいなかった。
この本を読んで久しぶりに購入して飲んでみたのだ。ベルギービールという芸術にあるように、スーパードライはまさしく「生理的な欲求を満たすビール」の代表と言える。
私が大学生の頃に、とある教授の部屋でお酒を飲む機会があった。その教授は食通であり、スーパードライは本物のビールではないと蔑んでいた。その影響と、社会人になって三菱系の会社にお世話になったこともあり、私はスーパードライを積極的には飲んでこなかった。

「(前略)女性のニーズに応えたことが大きいのではありませんか。苦いビールが辛いビールに変化しました。ですから、女性たちが美味しくいただいているのです。(後略)」(p.154)

樋口廣太郎さんの妻である公子さんの言葉だ。なるほど、女性の社会進出が進み、苦さではなく辛さを求める女性のニーズにうまくハマったのだと言える。そういうニーズを捉えてスーパードライが開発されたわけではないが、うまく時代の潮流に乗ることができた。

改めてスーパードライと向き合ってみた。久しぶりに飲むそのドライな味わいは、新鮮でキリリとして冴えていた。
でも、やっぱりプレミアム・モルツの方が美味いかなぁ…って、おい!ヾ(・ω´・。)
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(感想文の感想など)
暑い日はビールが飲みたくなる。アサヒビールは最近、アサヒ「ザ・リッチ」の売れ行きが好調らしい。この商品は新ジャンルと呼ばれる分類に属し、麦も麦芽も使っていないのでビールではなく、ビールっぽい雰囲気を出しているアルコール飲料だ。CMでは「ライバルはプレミアム」とビールでしかもハイエンドな商品をライバル視している。あいにく購入する客層は違うだろうけれど、安くてプレミアムビールと変わらない美味しさが味わえるかもという期待感をもたせるという戦略は成功しているようだ。