40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文20-23:「黄色いベスト」と底辺からの社会運動

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図書館の新刊コーナーにあったので読んでみた本。特段、黄色いベスト運動に強い関心を持っているわけではない。
一時期は毎日のように黄色いベスト運動がニュースになっていた。暴徒と化すデモ隊と警官隊との衝突、ストラスブールでの銃乱射事件、燃えるノートルダム大聖堂などなど。「絵」になる光景に事欠かなかったのだが、2018年11月17日に始まったこの運動はまだ終わりを迎えていない。
BBCニュースを見るのが最近の日課になっているのだが、今はBlack Lives Matter(BLM)がメディアに「絵」を提供し続けている。
先日のBBCニュース(無理して英語で聞いてる)で、デモ隊が銅像を引き倒して、水の中に投棄している映像があった。どんな人なのか日本語で調べてみたら、エドワード・コルストン(1636-1721)って人で、奴隷貿易で財を成して、その財で学校、病院、救貧院や教会を支援した篤志家だそうだ。
名画で読み解く イギリス王家 12の物語によると、コルストンが生きたのは、ピューリタン革命(1642)が起きて、チャールズ1世を処刑し共和制が樹立されるが、チャールズ2世が即位し王政復古(1660)、その後、名誉革命(1688)を経て、イングランドスコットランド正式に合併しグレートブリテン王国成立(1707)。アン女王が亡くなり、ステュアート朝断絶(1714)という時代。
えらいまた古い人を引きずり出して断罪しよんな(90年代から像の撤去の議論はあったようだが)と思うところで、奴隷商人とは言えその人の支援で救われた人はたくさんいるだろうし、恩恵を受けたのはイギリス人だろうし、砂糖の世界史を見ればわかるように、アフリカやカリブが未だに貧困から抜け出せていないのは、大英帝国奴隷貿易と植民地によるものやんけと辟易する。銅像を引き倒してるイギリス人も、外から見たら同罪やんけと鼻白むわけだ。
「黒人」が差別されるのは良くない。そりゃそうだ。でもその根っこの原因つくったのはイギリスやぞ。今更ながらBLMやゆうて昔の奴隷商人の像を倒してるその面の皮のぶ厚いイギリス人の行動が、黒人差別を生み出す精神構造そのものに見える。
話がずいぶんと遠回りした。個人的には社会運動そのものには全然同調しない(やりたい人がおやりになればよろしい)。特に暴力や放火や略奪が伴うような運動はどんな理由があろうと正当化されない。
さて、本書の内容について意見を言及することは避けたい。理由は、現時点でまだ終わっていない運動だからだ。そもそもこういった社会運動に終りがあるのかは正直なところよく分からないし、本来ならばすっかり運動が落ち着いて多くの人がすっかり忘れてしまった頃にまとまった本を出してくれると嬉しい(売れないかもしれないが)。
ということで、そもそも黄色いベスト運動が何であるかをまとめておきたい。
時系列は、以下のとおり。
15/12/12 COP21パリ協定
17/5/14 マクロン氏が第25代フランス大統領に就任
17/6/1 米がパリ協定離脱
18/1/1 仏の燃料税増税
18/11/17 暴動その1
18/11/24 暴動その2
18/11/27 マクロン大統領「増税は撤回しない」
18/12/1 暴動その3でついに死者が出てしまう
18/12/5 マクロン大統領「増税やめます」
マクロン政権への批判で社会運動は現在も続いている。さすがに暴動は収まってはいるようだ。
黄色いベスト運動の発端はガソリン税増税だ。ミクロ経済学で考えると、これは石油燃料による負の外部性を内部化するピグーに位置づけられる。環境のために燃料に増税するというのは、政策としては間違っていない。パリ協定から離脱したアメリカとはえらい違いだ。しかし、フランス国民からは支持されなかった。

事実、地方の田舎の住民にとって車のない生活は考えられない。なぜかと言えば、国営鉄道のサービスが極端に不足しているからである。(p.25)

地球環境問題対策としての燃料税を設計するのにいくつか配慮すべき大事な点が欠けていた。その1つが車以外の選択肢がないということだ。ガソリンが高くなかったからと言って、別の移動手段を選べない。都市部と郊外の生活環境の違いが考慮されていなかった。

燃料税の及ぼす社会的インパクトは極めて大きい。それはとくに、より貧しい庶民階級に関して明白である。それだから、この課税の社会的公正が問われると同時に、それに反対する黄色いベスト運動の正当性が浮き彫りにされる。(p.27)

そしてもう1点。経済格差をより広げてしまうということだ。都市部の金持ちは通勤に車を使わなくても良い。他方で車で通勤せざるを得ない人や運送業の人はもろに増税の影響を受けてしまう。

郊外での移動代替手段が無いこと、金持ち優遇政策になってしまうこと、この2点が暴動に近い社会運動となり、マクロン政権に打撃を与えた。
地球環境問題を考えると、正直なところマクロンは正しい(はずだった)。ではどうすれば良かったのだろうか。燃料税を増税するなら車以外の選択肢を与えること、二酸化炭素の排出を抑えるような技術開発への投資といったところだろうか。私が思いつくくらいなので、すでにやっているのかもしれない。
はてさて、昨今のコロナパンデミックの影響で二酸化炭素排出量がかなり減っているらしい。増税パンデミックも人間の行動を変容させるインセンティブとなりうる。理屈では正しいと思われた増税が暴動を引き起こし、避けられないトラブルであるパンデミック二酸化炭素排出を減らした。皮肉なものだ。
世界規模で移動を減らしていくようなライフスタイルへと変わっていくだろう。これから起きるのは、賃料の高い都市部から郊外への人の引っ越しかな。通勤がなくなると、都市部に住むメリットはほとんどなくなってしまうね。