40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-46:知性の限界―不可測性・不確実性・不可知性

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※2010年6月30日のYahoo!ブログを再掲
 
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タイトルだけを見ると固い感じを受けるだろう。読むまではごりごりした科学哲学の新書だと期待していた。

本書は良い意味で期待を裏切られた。架空のシンポジウムの講演録の形式をとり、(話の筋から関係の無い者もいるが)様々な立場の専門家が集まり、互いに意見をぶつけていく様を臨場的に描いている。

ウィトゲンシュタインポパークワイン、ナイト、カント、ファイヤアーベントと科学哲学の有名人たちの思想や主張が次々と紹介されていく。

科学哲学といえば、シュレディンガーの哲学する猫を思い出す。それから、科学哲学者 柏木達彦の多忙な夏も。どちらも(科学)哲学を取り扱っていながら、フィクションの世界観を構築して、分かりやすく解説しようとしている。

本書を通じて率直に感じることは、著者がファイヤアーベントを推しているってことだ。シュレ猫でもファイヤアーベント(1924~1994)の話があったけれど、あんまり覚えていない。破天荒な人間のイメージしか残っていない。だいたい名前がアナーキーな感じが漂っている。ずいぶん勝手なイメージなんだけれど。

ファイヤアーベントについて気になった箇所をピックアップしてみよう。

アメリカに渡ったファイヤアーベントは、ウィトゲンシュタインウィーン学団ポパーの呪縛から解き放たれて自由になった。そして、1975年に『方法への挑戦』を発表し、科学に特定の方法などなく、「科学は本質的にアナーキスト的行為だ」という「方法論的アナーキズム」を主張したのだ。(中略)彼が導いた結論は、単に科学論ばかりでなく、あらゆる知識について、優劣を論じるような合理的基準は存在しないというのもだった。

(ファイヤアーベントは)科学と非科学、西洋文明と非西洋文明、合理主義と非合理主義は、それぞれどちらも同じだけの権利で存在するものであって、そのどちらかを選ぶのは「市民」だと言っているんだよ。

科学の進歩は、論理実証主義帰納主義あるいは検証主義や反証主義のような狭義の規制だけで捉えきれるものではないということなんだ。

本書では繰り返し、「科学」について世間で思われているような狭量さを否定している。こうあるべきだ、ということすら否定。

実際には、未だに科学を帰納主義や反証主義で括ろうとする人がいる。しかも、科学者自身にそういう人がいる。しかし、ファイヤアーベントが言うように、科学はどうもそんな窮屈なものではないようだ。

方法論的アナーキズムっていう、なかなか挑発的で刺激的なネーミングをつけてファイヤアーベントのことがとたんに気になりだした。

調べてみると、1924年生まれっていうことで、わりと最近の人。同い年だと、河合雅雄竹下登村山富市安部公房山崎豊子力道山吉本隆明、ブッシュ(父)、カール・ゴッチカポーティって感じ。そうそうたるメンバーだ。ちなみにアンパンマンの作者であるやなせたかしは1919年生まれ。ファイヤアーベントよりも年上。

ところが、あんまりファイヤアーベントは日本では人気がなさそうだ。関係する本もあんまり出版されていない。ウィトゲンシュタインポパーよりも知名度は低いだろう。たぶん。ファイヤアーベントファンのみなさん間違っていたらゴメンナサイ。
ということで、ファイヤアーベントのことが気になりだした。有名な自伝を読んでみたい。

本書は、科学哲学に軽く触れたい人にはオススメ。科学について考えていくと、知性の問題に突き当たる。世界を細かく正確に再現性を持って認識しようとすると、その限界があらわになっていく。科学の方法論的な障壁ではなく、知るということ自体の限界性に悩むことになる。

個人的には科学に携わる仕事をしている人は、科学哲学をある程度学んだ方が良いと思っている。とはいえ、ファイヤアーベントの主張は、現在の科学と社会の関係をより一層ややこしいものにしてしまうかもしれない。なぜなら、科学は何でもありという主張は、科学の価値を不明瞭にするからだ。

昨今、科学者は研究成果を一般市民に分かりやすく伝えることを重要視しようという風潮がある。(考えすぎかもしれないけれど)これは同時に、非科学的なものを検知し市民に注意喚起することが求められるようになるかもしれない。

そういう状況になるとファイヤアーベントの考え方が生きてくる。いつの時代も科学は権威化しうる。権威化した科学は科学自身を滅ぼしてしまう。非科学的なものを排除する圧力を生み出さないよう、科学は常に自戒している必要があるだろう。

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(感想文の感想など)

そういえば、科学哲学に関する本を長らく読んでない気がする。今はあんまり強く読みたい気分じゃあないな。なんでやろ。