40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-02:もうひとつの「世界でもっとも美しい10の科学実験」

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※2010年1月6日のYahoo!ブログを再掲
 
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随分前に、「心は実験できるか―20世紀心理学実験物語」という本を読んだ。有名なミルグラムの電気ショック実験や、悲しいハーローのサルの愛情実験が印象に残っている。

それから、自分の体で実験したいでも10のセルフ人体実験が紹介されていた。どれも到底マネできない危険なもの。

さてさて、こんな感じの10の実験本っていうのは、良くある。本書の元となったのは、「世界でもっとも美しい10の科学実験」という本。こちらの方が元祖で、物理学誌でのアンケート結果に基づき、10の物理学実験が紹介されている。

本書では、物理学に限定せず、化学、生物学にも広げ、でも著者が独断と偏見で選定したもうひとつの10の美しい実験が紹介されている。なので、化学分野からラヴォアジエ(1743~94)や、生物学分野から動物電気ガルヴァーニ(1737~98)やあのパブロフ(1849~1936)が登場している。

時代もガリレオ(1564~1642)からミリカン(1868~1953)と幅広く扱っている。科学の進展と多様な分野で全体としてのつながりは分かりにくいけれど、どの分野のどの時代の実験も確かに美しさがある。

その美しさに至るまでには、多くの苦悩とそれを乗り越える工夫や着想に溢れている。見えないものを見ようとし、測れないものを測ろうとする。対象への新しい認識は、無数のアイデアの芽に溢れていると同時に、無数の過ちの穴も空いている。まさに

実験室のなかにある一番きまぐれな装置は人間の脳だということは、今後も決して変わることはないだろう。

その通りだと思う。知りたい欲求は、駆動力に不可欠である当時に盲目の原因でもある。

さて、本書で初めて知ったことをメモっておこう。

ガリレオは、

ケプラーの提唱した、「惑星は楕円運動をする」という重要な洞察を決して受け入れなかった。天体の軌道は完全な円でなければならないと思い込んでいたのである。

とのこと。ふうむ。それから、異端審問で「それでも地球は動いている」なんてことは言ってなかったらしい。真実はそんなものかな。

落下リンゴで閃いたことでも有名なニュートン(1643~1727)。本書では、プリズムでの光の実験でノミネート。ジャンバッティスタ・ピットーニ(1687~1767)「寓意のモニュメント(アイザック・ニュートンに捧げる)」の絵画が本書に掲載されている。こんな風にして実験をお披露目していたのかも。これは見たい!と思ったらこの絵は2年前に来日していたみたい。しばらく見られないかな。

ラヴォアジエは、燃える現象の本質を突き止めた。フロギストン(燃素)は存在しないことを明らかにし、空気の生成と分解に成功した。そして、徴税請負人らしく「質量保存の法則」を見出した。フロギストンの存在を否定したのは、大きなパラダイムシフトだった。そんな偉人もフランス革命のギロチンで露と消えてしまったのは、惜しい。

ガルヴァーニとボルタ(1745~1827)は、電気の現象に異なるアプローチで衝突した。ガルヴァーニは有名なカエルの足を使った実験で、動物電気の存在を示し、ボルタは化学変化による電池を発明した。後に動物電気は否定されることになるが、生理学の源流となる。本書にあるように『生命は電気化学』なのである。

ファラデー(1791~1867)の章で登場したエイダ・ラブレス(1815~52)。初めて彼女のことは知ったけれど、本書では女性がほとんど登場しないので、特に印象に残った。28歳のエイダは、妻がいて、敬虔なクリスチャンであるファラデー(当時、53歳)にファンレター(ほとんどラブレター)を送る。これがきっかけで、神経衰弱していたファラデーが奮起し、電磁気と光の関係を導き出す仕事へとつながった(のかもしれない)。

ここから完全に本書から脱線します。

エイダ・ラブレスは奔放で、今風に言えば小悪魔かな。そもそも父親からして違う。ジョージ・バイロン(1788~1824)がその父で、不倫、近親相姦、同性愛とスキャンダルにまみれた人間だった。

エイダとフランケンシュタインの作者であるメアリ・シェリー(1797~1851)は、年の差はあれど仲が良かった。そのメアリはバイロンに促されてフランケンシュタインを書き上げた。ディオダティ荘の怪奇談義(ググって下さい)に詳しい。メアリの生まれと育ちもすごい話が盛りだくさん。初めて知った。人物相関図を書こうと思ったけれど、挫折。ドロドロすぎる…。

線路に戻って、実験の面白さは、世界を一変させることにある。客観的な事実を突きつけ、世界を変えてしまう(正確には世界の認識の仕方が変わるんだけれど)。

小さな装置とエレガントなアプローチで、世界を変える可能性を秘めている。それが実験なんだ。

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(感想文の感想など)

メアリー・アニング(感想文09-35)と同様に、エイダ・ラブレスも紙幣の最終候補者として残っていた。ラブレスは19世紀に世界で初めてプログラムを記述したらしい(がその貢献度合いははっきりしない)。

同い年生まれは、ビスマルク井伊直弼。36歳の短い生涯だった。江戸時代末期にプログラミング(当時はそんな風には呼ばれてなかっただろうけれど)があったとは驚きだ。とはいえ、あまりラブレスに関連する本が無いんだよね。