40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文18-24:生物はウイルスが進化させた

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※2018年7月12日のYahoo!ブログを再掲
 
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2016年に最も面白かった本に選んだ巨大ウイルスと第4のドメイン(感想文16-19)と同じ武村先生によるブルーバックス。今回も本書は、驚きの説へと読者を誘ってくれる。

本書では、巨大ウイルスが私たちに問いかけているさまざまな「謎」を、重箱の隅をつつくようにつぶさに観察して、洗いざらいさらけ出そうと考えている。(p.6)

まず最初に、私自身の理解を深めるために、巨大ウイルスについて整理しておこう。何が巨大なのか。

まずは大きさ。

巨大ウイルス1種であるパンドラウイルスの大きさは1μm以上ある。1mmの1/1000。髪の毛の太さが約100μmだから、その1/100。クモの糸が約5μmなので、その1/5。もちろん、目で見えるサイズではないけれど、一般的なウイルスよりも10倍ほど大きい。
1マイクロメートルという大きさは従来、生物にのみ許されてきたサイズであった(p.48)

パンドラウイルスは電子顕微鏡でなく光学顕微鏡で見える大きさであり、最も小さいバクテリアであるマイコプラズマ(200nm)よりも大きい。ウイルスなのにデカイのだ。

パンドラウイルスは、粒子のサイズが大きいのみならず、そのゲノムサイズが、なんとミミウイルスの2倍を超える247万塩基対もあったのだ。この大きさは、最小の真核生物(!)である微胞子虫類エンケファリトゾーンの一種のゲノムサイズ(218万塩基対)よりも大きい。(p.69)

合成生物学の衝撃(感想文18-20)で紹介されていた、クレイグ・ベンターらが作成したミニマル・セル(※ベースはマイコプラズマ)は53万1490塩基対で遺伝子数は473。パンドラウイルスの遺伝子数が2,556と圧倒的に多い。しかも、パンドラウイルスよりもゲノムサイズが小さい真核生物がいるというのだから驚きだ。その大きさだけで、私が学生時代に習ったウイルスという枠組みが完全に崩壊してしまう。

「ウイルス粒子」と「ウイルス」は分けるべき概念なのだということである。別の言い方をすれば、「ウイルスの本体はウイルス粒子ではない」ということである。それでは、いったい何が「ウイルス本体」なのか?「ウイルス粒子を作るもの」こそが、ウイルスの本体なのだ(中略)ウイルス粒子を作るもの。それこそが「ウイルス粒子に感染した細胞」である。(p.221)

前書でも示されていた「生物」と「生きている」の分離。本書では、もう少しわかりやすく「ウイルス粒子」と「ウイルス」の分離さらには「ウイルス粒子」と「ウイルス粒子に感染した細胞」の分離を説いている。

これはウイルスが生物であるかどうかという議論や生物と無生物の違いについての議論ではない。ウイルスは生物の進化に深く関わっているし、その「証拠」があるじゃないかと大胆にも指摘している。

証拠を提示する前に、少し「細胞内共生説」について説明しておこう。ウィキペディアによると『真核生物細胞の起源を説明する仮説。ミトコンドリア葉緑体は細胞内共生した他の細胞(それぞれ好気性細菌、藍藻に近いもの)に由来すると考える。』とある。

例えば、植物の細胞の中には光合成を行う葉緑体がある。そんなの当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、その葉緑体はどこでできたのだろう(こういう疑問が浮かぶようになりたい)。もともとは別の生物だったのが、細胞に共生(感染と言っても良いだろう)し、細胞小器官の一つとしてちゃっかり居座っている。私たちの細胞にあるミトコンドリアもそうだ。

細胞小器官(オルガネラ)は他にもあるが、葉緑体ミトコンドリアは細胞内に居座っている他所様という例外的存在なのだろうか。他のオルガネラはどうなのだろうか。

細胞核がどのようにできたのかについては、(中略)「細胞内共生説」のような確立された学説は存在しない。(p.183)

細胞核はDNAを格納している細胞にとって最も重要なオルガネラだ。まさか、その細胞核が…

真核生物の細胞核は、その祖先細胞がウイルス工場を形成するようなウイルスに感染した後、そのウイルス工場がやがて進化してできたものではないか、というシナリオが考えられる(p.188)

衝撃。マジか。ミトコンドリアが他所様というのは、百歩譲って納得できる。細胞核、お前もか。なんだか自分自身の細胞のことなのに、急に不安になってきた。え?細胞核はウイルス感染して、出来上がったの?しかもウイルス?

真核生物、アーキアバクテリア、そしてウイルス。これら4つのドメインがあり、しかも「レプリコン」という単純構造を持った共通の祖先がいた(たぶん)。これが枝分かれし、今に至るわけだけれど、そう単純でもない。

多彩なオルガネラで構成される複雑な真核生物の中に、バクテリアやウイルスが共生している。単純に4つのドメインと分けてしまうことにどれだけ意味があるのだろう。またウイルスを非生物として疎外することにどれだけ意味があるのだろう。

今回も文句なしに面白かった1冊。非常に分かりやすく解説され、そしてなおかつ知的興奮を抑え切れない。素晴らしい。

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(感想文の感想など)

新型コロナウイルスに世界で約1000万人が感染した。感染拡大は収まりそうにない。誰しもが感染症による身体の不調や死を避けたい。マスクをつけ、手指を消毒し、人と距離を保つ。

改めて進化や生命についてウイルスとの関係を考えてみると、ふと気づく。私たちは何と戦っているのかと。

ウイルスは敵でも味方でもない。ウイルスは自分のコピーを増やしているだけだ。そして生物たるヒトもウイルスを利用している。ウイルス、ウイルスに感染した細胞、感染していない細胞の3つが交差する様態はまさに生命現象だ。

堂々と共生するほかない。新しいウイルスはこれからも出てくるだろう。薬やワクチンや診断を開発し、どんどん利用すればいいい。でも、日本で再び感染者が増え、多くの死者が発生したとしても、それを敗北と思い込む必要はない。戦いでなければ、勝敗もない。ヒトもウイルスも同じく生きていくのだ。