40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文19-01:細胞内共生説の謎

 

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※2019年1月9日のYahoo!ブログを再掲
 
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タイトルにある「細胞内共生説」とは、ウィキペディアによると『1967年マーギュリスが提唱した、真核生物細胞の起源を説明する仮説。ミトコンドリア葉緑体は細胞内共生した他の細胞(それぞれ好気性細菌、藍藻に近いもの)に由来すると考える。 』というものだ。

提唱者であるリン・マーギュリス(Lynn Margulis, 1938-2011)は、同じくウィキペディアによると『アメリカの生物学者マサチューセッツ大学アマースト校地球科学部教授。』とのこと。

マーギュリス教授と同じ年生まれは、伊吹文明大林宣彦細川護熙ジャイアント馬場石ノ森章太郎松本零士鈴木史朗木村太郎中島誠之助、梅宮辰夫、島倉千代子細木数子アルベルト・フジモリ野依良治小林旭。今でも存命でもおかしくないくらいだ。

まず最初に伝えておきたいのは、本書の内容は難しいということだ。バイオ系で修士号を持つ私でも、控えめに言ってチンプンカンプンである。親しみのあるタームはそれなりにあるものの、自分が理解している科学の範囲が極めて限定的だということを思い知らされる。

とはいえ、そんなチンプンカンプンであっても、とんでもない驚きがある。

本書はオルガネラ(細胞小器官)の細胞内共生説に関わる生物学史、半ば生物学の解説書である。オルガネラの細胞内共生起源は決して確立した事実とは言えないという立場から、このいまだに正体のはっきりしない説について、その提唱の歴史をたどるとともに、現代的な問題点も扱っていく。(p.1)

細胞内共生説は確立した科学的事実とは言えないのだ。な、なんだってーーー!パラサイト・イヴという一世を風靡した小説(読んでないけど)の根幹にある説じゃないか。細胞内共生説はすっかり科学的に定着した説だとばかり思っていた。

いまは誰もが当然のことと思っている細胞内共生説であるが、その根拠はと聞かれると、意外と脆弱である。(p.242)

そこそこショックである。他方で、こういう本を描くのは勇気の要る行為だ。新しい説を提唱するともてはやされるが、過去の説を否定するメリットは小さい上に、信奉者から叩かれるのが常だ。

常考えられているリボソームRNAの獲得で表されるような一次共生とは独立に、何度も何度も、シアノバクテリアからも、その他の細菌からも、遺伝子が導入されたと思われる。逆に言えば、ここに示したような遺伝子の由来が先にわかっていれば、細胞内共生説はおそらく受け入れられなかったのではないかとおも思われる。これは知識のバイアスの問題である。(p.199)

細胞内共生説を科学的に立証すること自体が困難である一方で、これまでの生物学史を丁寧に紐解いていくと、当時にはわからなかった情報がバイアスを生み出していることが見えてくる。科学者であっても万能ではない。しかし、時間を経て、説が否定されることはままあるのだ。

とはいえ、一旦定着してしまった説を覆すのは至難の業だ。誰も読まなかったコペルニクス(感想文10-04)にあるように、惑星の軌道を真円のみで説明しようとして、周転円を重ねることになってしまった。

物理学では、よりエレガントな説明によって説を覆すようなことは起きえるが、生物学ではどうだろうか。細胞内共生説はエレガントではないが、ある種、ロマンティックなドキドキ感、つまり人の細胞とは言え、別の生物が共生しているかもしれないという説は、小説のネタになったように、人間の心を惑わす説だったのだろう。厳密には科学的ではないにせよ。

生物はウイルスが進化させた(感想文18-24)では、細胞内共生説が確立した説として紹介されていた。細胞核ももしかしたらウイルスから来ているかもしれないという仮説で驚かされた。仮説段階だからこそ、面白いという側面もあるだろう。今まさに研究している人にとっては、細胞内共生はスリリングな分野であろう。

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(感想文の感想など)

細胞内共生、オルガネラ、相分離の関係について改めて考えてみたい。ホットな研究領域。