40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文13-47:(株)貧困大国アメリカ

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※2013年8月8日のYahoo!ブログを再掲

 

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ルポ 貧困大国アメリカ II(感想文10-76)に続く、貧困大国アメリカシリーズの第3弾。最新のアメリカ事情が描かれている。

思えば、長らくアメリカに行ってない。そんなに行きたいとも思わないんだけれど。Ⅱを読んだ時に、さすがアメリカ、やることが容赦無いって驚いた。本書では続編であるが、さすがにⅡほどの驚きではなかった。さらに先鋭化している感はあって、どの政治家も全くもって信用できないし、えげつないのが、その容赦無い手法がいつの間にやら法でお墨付きを得ていて、合法化されているってことだ。行政も司法も立法もグルなのだ。

ということで、気になった箇所、今回はファクトが多いけれど、を挙げておこう。

SNAPとはアメリカ政府が低所得者や高齢者、障害者や失業者などに提供する食糧支援プログラムだ。以前は「フードスタンプ」と呼ばれていたが、2008年10月にSNAPと名称を変えている。

補助的栄養支援プログラム(SNAP:Supplemental Nutrition Assistance Program)とのこと。名称が変わっていたんだね。仕組みは食料品(嗜好品除く)を買うための金券みたいなもの。日本の生活保護制度とはちょっと違うようだ。

4人家族で年収2万3314ドル(約230万円)という、国の定める貧困ライン以下で暮らす国民は現在4600万人、うち1600万人が子どもだ。

さすがの貧困大国。超絶金持ちがいる一方で、4人家族で年収230万円以下がこんなにもいる。SNAP費用でもものすごい額になるだろう。

勤勉で英語堪能、組合もなく福利厚生も要らず、労働条件には一切文句を言わず、最低賃金の10分の1ほどで雇用できる囚人労働者は、今全米の企業からひっぱりだこの人材だ。

Ⅱでも紹介されていた刑産複合体だ。学資保険や病気などで貧困に陥り、犯罪に走り、捕まり、刑務所に放り込まれて、低賃金で労働する。って、何だかカイジみたいだ。ものすごく労働環境の悪いところで働かされる囚人は少なくないのだろう。

農作物におけるGM作物比率はわずか20年ほどで急激に拡大し、現在米国内で作付けされているテンサイの95%、大豆の93%、トウモロコシの40%がGM作物だ。

GM作物が環境や健康に悪影響があるということについて個人的には懐疑的だ。とはいえ、このビジネスモデルが貧困層を生み出しているかもしれないという指摘を否定はしない。よく分かってないだけ。

ウォルマートは)2013年度には全米に4740店舗を展開し、純売上高4661億ドル(約46兆円)、全米で毎週2億人、世界で72億人の顧客が訪れる、世界一の小売業となった。

こうやって数字を見るとものすごいよね。日本の国家予算の半分くらいを売り上げている。餃子1日5万個と比較にならないくらいスケールが大きい。SNAP受給者たちもウォルマート御用達だろう。

(インドの)農民たちは膨れ上がる支払いに首が回らなくなり、次々に自殺に追い込まれていった。2000年の半ばから農民の自殺率は急上昇し、2011年までに自殺者は27万人に達した。

これは組み換え綿花の話。農民の自殺率と組み換え綿花の関係、それから27万人という累積人数はどのように整理したらいいか、ちょっと曖昧に書かれている。とはいえ、27万人が自殺っていうのは、驚きの数字だ。

今、デトロイト中心部では人気のなくなった車関連工場や学校、映画館、オフィスビルなどが廃墟となって放置されている。約7万9000軒の無人の家は雑草が生えるままに放置され、まるでジャングルのようだ。全盛期に185万人だった人口も、(中略)今は71万人に減ってしまった。貧困率、凶悪犯罪発生率ともに全米1位となり、失業率は50%

デトロイト財政破綻したというニュースが最近報道された。人口が減少し、犯罪が横行し、貧困と失業にあえぐ。財政が傾き、圧縮財政がそれを加速させ、公的なサービスは機能不全を起こす。かつて自動車の街として栄華を誇ったデトロイトには、今はもうその姿はない。ジャングルと化したゴーストタウンをちょっと見てみかったりはする。ストリートビューで見れるのかなぁ。

2009年以来、アメリカ国内では30万人の教師を含む約70万人の公共部門労働者が職を失い、学校では約4000校の公立学校が閉鎖されている。

これもすごいね。公共っていったい何だろう。どうせ刑務所に放り込まれるんだから、教育は不要であるとすら思われているのだろうか。

2005年12月。人口10万人、全米初の「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生する。(中略)サンディ・スプリングスが象徴するものは、株式市場主義が拡大する市場社会における、商品化した自治体の姿に他ならない。そこで重視されるのは効率とコストパフォーマンスによる質の高いサービスだ。そこにはもはや「公共」という概念は、存在しない。

こちらもすごい取り組み。商品化された自治かぁ。サンディ・スプリングスについてもうちょっと調べてみたい。

アメリカ国内のメディアがわずか5社の娯楽系多国籍企業傘下に組み込まれるという寡占化状態が誕生する。

政治や行政をチェックするはずのメディアも同じ穴のムジナだ。本書ではソーシャル・ネットワークによる新しい戦い方?みたいなものが載っていたけれど、そういうネットワークを作っているのも巨大企業であり、本書で言うところの1%側だ。

あとがきにはこうある。

コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒着した企業群によって、合法的に奪われることだろう。

ポイントは合法ということ。立法も行政も合法的に貧困者を生み出し、搾取する。そして、メディアはその真実を伝えないばかりか、覆い隠したり、ミスリードして、貧困者の不満を和らげたり、矛先を変えたりする。米国では、現代に奴隷制度が復活したかのように見える。

どのようにすれば奴隷は開放されるのか。否、自らが奴隷であることすら認識していないのではないか。とはいえ、自分が暮らしている世界ではないから、どうもドライに見てしまう。日本がアメリカのようになるかもしれないけれど、ピンとこない。

静かなる大恐慌(感想文13-35)では、資本主義によるグローバル化社会の別の価値を切り捨ててしまうという指摘があった。アメリカはお金以外の価値をギリギリまで削ぎ落として制度設計を進めているように感じる。いつか1%と99%の間での戦争が起きるのだろうか。

これからもアメリカの動向はチェックしていきたい。

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(感想文の感想など)

刑務所の民営化がやはりエグい仕組み。それからサンディ・スプリングス市のような金持ちだけが暮らす街が作られるのも凄まじい。

アメリカは大胆で極端で実験的。格差は広がっているが1%と99%の間での戦争は起きてない。未だに肌の色で揉めているのが興味深い。