40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文16-39:ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃

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※2016年12月6日のYahoo!ブログを再掲

 

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最近、よく耳にする社会を変えうるテクノロジーの代表といえば、AIとゲノム編集だろう。著者の小林雅一さんは

クラウドからAIへ(感想文14-10)も書いておられ、技術動向への鋭敏さと守備範囲の広さに驚いている。

ゲノム編集とは一体何だろうか。既存の遺伝子組み換えと一体何が違うのだろうか。本書で気になった箇所を挙げておこう。

「遺伝子ドライブ」と呼ばれる技術の登場だ。遺伝子ドライブは、たとえばアフリカのサハラ以南でマラリアを引き起こす蚊などを、遺伝子工学の力を使って人間が意図的に駆逐してしまう技術だ。

本書で初めて知った用語がこの遺伝子ドライブ(gene drive)だ。この技術により、種全体に及ぶ遺伝子変化が引き起こされ、例えば蚊を絶滅させることができるかもしれない。ただし、蚊の不在が環境にどういった影響をおよぼすのかは不明であり、実際に適用することの是非に意見は別れている。

要するに従来の遺伝子組み換え技術は、「組み換え」という言葉から連想される自由自在なイメージとは裏腹に、実は様々な問題や限界を抱えた不自由な技術だったのだ。

遺伝子組み換え技術は、現実には幅広く世の中に適用されている。私たちが口にする食品でも、多くは遺伝子組み換え不使用というラベルが貼ってあるかもしれないが、外食した際にそういったものは普通に提供されている。遺伝子組み換え技術は既に世に浸透しているといって差し支えない。

クリスパーとは、従来よりも圧倒的に「速く」「安く」「正確に」遺伝子を操作できる技術なのだ。さらに、それは「種族」を問わない。(中略)あらゆる種類の動物や植物に適用できる「汎用的な」遺伝子操作技術なのだ。

そのため、家畜、家禽、魚類、植物などへの応用が強く期待され、世界各国で激しい競争が起きている。種族を問わない、ということはもちろんヒトにも応用できるのだが…。

ゲノム編集が対象にしているのは「生命」「寿命」「健康」「医療」「子孫」「美容」など、私たち人間の欲とエゴと見栄に直接関わってくることであるからだ。それはまた、人間の本質に関わる事柄でもある。

とあるように、結局はヒトへの適用についてキリスト教的倫理観的抵抗(っぽい何か)が巻き起こる。しかし、そういうことに鈍感かつ大雑把で野心的な中国で、国際的な非難を物ともせず、いつしかやってしまうことだろう。そんな中、日本はどうだろうか。

進境著しいクリスパーなどゲノム編集がカバーする産業は多岐にわたる。GMOのような農業は元より、食品、製薬、医療、バイオ、化学……と数え上げれば切りがない。これらの分野で世界的な開発競争が加速する中、日本の出遅れが関係者の間で危惧されている。

ということでゲノム編集が欠かせない新たな技術となっている。しかしだ。

最大の問題点は知的所有権、つまり特許権を、欧米の大学や企業に押さえられてしまったことだ。

クリスパー:CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)は、1987年に大阪大学の石野良純教授らにより大腸菌のDNAを調べている際に、発見された繰り返し配列だ。元々は日本の研究成果が関わっていたが、権利化には関与できなかった。結果、完全に知財は欧米に押さえられ、例え日本の企業が実用化したとしても、多くのライセンス料を支払うことになるだろう。

ダウドナとシャルパンティエの両氏は、グーグルの創業者のセルゲイ・ブリン氏らが創設した「ブレークスルー賞」を2015年に受賞。各々、300万ドル(3億円前後)もの賞金を授与された。

さて、ゲノム編集の立役者であるダウドナとシャルパンティエは、当然のようにノーベル賞の候補になっている。今年は取れなかったが、受賞するのは時間の問題と考えられている。

ノーベル賞には名誉と賞金があるが、既に二人は、多額の賞金を手に入れ、セレブ並みの扱いを受けている。権利がどうなるかは係争中ではあるが、少なくともノーベル賞の賞金が霞むほどの資金の投資を受けることは可能であろう。現在のサイエンスは、確かに基礎的な研究もあるが、一方で非常に大きな経済活動に直結する研究があることも事実である。

ゲノム編集は、おそらく不可逆的に世界を変える(変えてしまう)技術だ。特定の遺伝子を壊すだけなので、現行規制上の遺伝子組み換えとは異なっている。この技術を止めることはできそうにない。まあ、私は止めるべきでもないと思っている。

残る課題はヒトへの応用だろう。技術的な課題ではなく、これを受け入れるか、というよりも、どのように受け入れるか、いつまでに受け入れるか、という問いになるかもしれない。

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(感想文の感想など)

ゲノム編集の特許はどうなっているだろうか。日本の状況を整理しておこう。

特許発明その1
2016/6/14:米ブロード研が特許出願
2017/4/28:拒絶査定
2017/9/15:拒絶査定不服審判請求
2018/9/14:請求不成立
2019/1/29:審決取消訴訟の提起
2020/2/25:請求棄却(=特許は無効)

特許発明その2
2016/6/29:米ブロード研が特許出願
2017/5/9:拒絶査定
2017/9/15:拒絶査定不服審判請求
2018/9/14:請求不成立
2019/1/29:審決取消訴訟の提起
2020/2/25:審決取消(=特許は有効)

ということで、米ブロード研の審決取消訴訟(=特許庁との戦い)は1勝1敗。

特許の行方、ノーベル賞の行方、新技術開発の行方が気になるところ。