40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文18-42:マンモスを再生せよ

f:id:sky-and-heart:20200721094803j:plain

※2018年10月12日のYahoo!ブログを再掲

 

↓↓↓
私の小さいときの夢は絶滅動物を復活させることだった。さらには、ファンタジー世界にしかいないドラゴンやペガサスやグリフォンのような動物を創り出すことだった。終ぞやその夢を叶えることはできなかったのだが。

しかし、その夢が現実世界で他の誰かが叶えてしまうかもしれない。それだけ科学技術が進展し、成熟してきたのだ。

科学はもはや、自然世界を研究し理解し説明することにとどまらない。自然に隠された秘密と謎を解き明かすだけにとどまらない。科学は、ずっと奥の細胞レベルでそうした秘密を書きこみ、創りだすことができる。生物学と遺伝子学は、消極的な観察から、積極的な創造へと変わったのだ。(p.29)

私が20年近く前に学んだ最先端技術はDNAを読む方法だった。ヒトゲノム計画(HGP)華やかなりし頃だった。本書の主人公であるジョージ・チャーチ(1954-)はHGPの発起人の一人だ。生命の設計図と呼ばれたゲノムを高速で読むことができるようになり、そしてゲノム編集技術によって書き込む・書き換えることが可能になり、いよいよ新しい生命を生み出すこともできるかもしれない。(ゲノム編集とは何か(感想文16-39)及び合成生物学の衝撃(感想文18-20)参照)

6500万年前の恐竜のDNAは、実験室でクローンを作ることはおろか、ゲノム解析できる状態にあるとすらいえない。無傷の細胞核がなければ無理なのだ。けれどもケナガマンモスは違う。ケナガマンモスは実質的に死んだ瞬間に急速冷凍され、非常に新鮮な状態で北極地方の氷から掘り出されている。恐竜とは違って、そうしたマンモスの死骸の中には、まだ2、3000年しか経っていないものがある。(p.87)

全く新しい生物ではなく、絶滅した動物、しかもマンモスを復活させるプロジェクトを描いたのが本書だ。ジュラシック・パークのように恐竜を復活させるのは、科学的ではないかもしれないが、マンモス再生は科学的に可能となってきた。

しかしだ。根本的な疑問が障害となる。なぜマンモスを復活させなくてはいけないのか。滅ぼしてしまった人間の罪滅ぼしとか、技術的に可能になったからとか、新しいエンタテインメントのためということでは、説得性に欠ける。Howはクリアしている。課題はWhyなのだ。

永久凍土層は幅数万キロメートルに延び、いくつもの大陸を横断し、地球を一周している。地球の陸地の20パーセントを占める地質だ。深さは3メートルほどで、揺るぎなく安定し、外部の影響を受けなさそうに見える。(p.119)

永久凍土は永久に凍った土地ではない。地球温暖化によって溶け出し、閉じ込められていた温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)を放出すると言われている。その量がとんでもなく多く、さらに温暖化を推し進めてしまう。

草食動物が表土を掘り起こし、踏み鳴らして、永久凍土を冷気と風に常にさらすことができれば、その下の凍土は冷え、貴重な永久凍土を保持できる。比較的暖かい時期には、木を切り倒し、牧草を刈って、地表面の光の反射率を上げ、更新世後期、いわゆる氷河期の環境の復元を目指す。(p.122)

そもそも永久凍土となっている土地は、今のような状態ではなかった。マンモスのような大型動物がたくさん生息していたのだ。巨大なマンモスが闊歩し、地表を掘り返すことで、環境は保持されていた。孤独なロシア人科学者ジモフはジュラシック・パークならぬ「氷河期パーク」を創ろうとしていた。

こうしてマンモスを復活させるプロジェクトに地球を救うという大義名分が与えられ、加速していく。本書が面白いのは、実際にゾウの胎盤を入手し、幹細胞を創り出し、そしてゲノム編集技術によってマンモスの特徴(毛深い、寒いところでも生きていける、小さい耳など)再現できるよう幹細胞のゲノムを書き換えるという最新の科学的手法だけではない(その先にあるマンモスの人口子宮の開発も含めて)。

マンモスに限らす絶滅した動物の再生が、科学とビジネスの世界で激しい競争を巻き起こしている姿をスリリングに描いている。

ジョージ・チャーチに対抗しているのが、あの韓国の科学者ファン・ウソクだ。2005年末に発覚したヒトES細胞捏造事件で表舞台からは姿を消した。ところがだ。2010年代にクローン犬ビジネスの第一人者として表舞台に再び登場し、クローン動物作成ビジネスで息を吹き返している。そして、マンモス再生競争にも名乗りを上げ、先主権争いを激しく繰り広げている。

絶滅種再生活動も、リバイブ&リストアで進行中だ。資金を大がかりに調達できれば、早ければ2022年に最初の代用リョコウバトが飛ぶだろう。(p.287)

リバイブ&リストアは絶滅動物復活を目論むNPOだ。鳥類史上最も多くの数がいたが、乱獲によって20世紀初頭に絶滅したリョコウバト(passenger pigeon)の再生が現実味を帯びている。

人類は多くの生物を絶滅に追い込み、地球環境を破壊してきた。そして、今になって絶命した動物を再生し、地球環境の変動を食い止めようとしている。不思議なものだ。

いずれにせよ、科学が資本主義的なイノベーションだけでなく、持続可能性へと貢献する方向性を広げつつあるのは歓迎したい。でもそこに日本の科学が貢献できないのは、何とも寂しい気がするな。本書ではほとんど日本や日本人が登場しないことが、かえって印象的だったし、象徴的だった。

↑↑↑

 

(感想文の感想など)

改めて調べてみると、日本では近畿大学が「マンモス復活プロジェクト」をしている。近畿大学は面白いテーマを見つけるなぁ。

2019年3月にScientific Reportsで発表された論文“Signs of biological activities of 28,000-year-old mammoth nuclei in mouse oocytes visualized by live-cell imaging”によると、2万8千年前のマンモスの細胞核が生命活動の兆候を示したというのだ。

非常に状態の良い2万8千年前のマンモスの生体サンプルを入手し、そこから細胞核を取り出し、そのマンモス細胞核をマウスの卵子に注入して観察したのだ。その結果、細胞分裂の直前の状態まで持っていくことができたということで、これはマンモス復活に一歩近づいたかということで話題になったそうだ。

私が生きているうちに復活マンモスを見たり、マンモス肉を食べたりできるだろうか。