40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文20-29:植物はなぜ薬を作るのか

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小学校3年生の次男は学校の課題でオクラを育てている。育てていると言ってもほぼ放置で、ものすごく晴れた日にたまに水をやるくらいだ。

ベランダにほぼ放置されたオクラの鉢植えが部屋からたまに見える。少しずつ生長し、たまに水が足りないのかしおれている。

植物は動けない。いや、動かない。動かないという戦略で繁栄してきた。動かないからこそ、耐えて生き延びる術や他の生物を操る術を編み出してきた。動物との大きなちがいは、多様な代謝産物だ。

一種の植物種だけに含まれる特異的な成分は、平均して4.7個であることと、先ほどの植物種の総数が22万~26万種であることを合わせて考えると、地球上の植物種全体に含まれる成分の総数は、4.7個×22万種=約100万個ということになります。(p.125)

次男の育てているオクラにも特異的な代謝産物が5個くらいあるかもしれない。そう考えると、どの植物も特別な存在に思えてくる。地球の植物には100万個の化学物質があり、それはそれぞれの植物が進化してきた歴史でもある。もちろんすべてが有用というわけではないけれど、将来の薬のもとになる物質が含まれている。

植物の活用術が薬学へと発展し、それが西洋医学東洋医学という2つの流れを形成していく。現在の主流は西洋医学還元論的であり、植物から有効成分を抽出し、特定し、病気の治療に用いる。他方で東洋医学もその価値を見直されつつある。全体論なのか複雑系なのか創発なのか名称に流行り廃りがあるが、統合的に現象を捉えようとしている。こちらのほうが難しいし、ニセ科学との区別もつきにくい。代替医療のトリック(感想文10-49)を思い出す。

モルヒネアルカロイドと呼ばれる化学物質群の一つです。アルカロイドは、別の言い方では植物塩基とも呼ばれます。その分子構造内に窒素原子を持っているため、水に溶かした時にアルカリ性を示します。そのため、“アルカリ性を示す物質”という意味での「アルカロイド」と命名されました。(p.33)

毒と薬の世界史(感想文09-14)にも登場したアルカロイドアルカリ性だからアルカロイドだったのか。麻薬のヘロインはモルヒネから作られる。ちなみにケシ(※日本では法で栽培が禁止)の果実を傷つけて採取できる樹脂を乾燥させたものがアヘンで、そこからモルヒネが抽出できる。

モルヒネオピオイド系鎮痛剤で極めて優れた鎮痛剤であるが、アメリカでは過剰使用が蔓延していて巨大マーケットを形成すると同時に中毒死を生み出す死屍累々状態だ。

甘草の主要産地である中国での乱獲が進み、中国政府は2001年頃から甘草の輸出制限を始めました。現在のところ甘草はその供給を海外に依存していて、今後の安定供給が不安視される「第二のレアアース」となっています。(p.68)

第二のレアアースというのはいささか盛った表現に思えるが、政府が輸出制限をしてコントロールするのはレアメタルの地政学(感想文20-26)と似ている。しかしながら、レアメタルと同様の戦略は通用しそうにない。甘草から抽出されるグリチルリチンは甘味料に用いられているが、代替できる甘味料はあるし、甘草を中国以外で育てることもできるだろう。さらには代謝経路が分かれば、グリチルリチン酸を生合成するような微生物や他の植物をバイオテクノロジーで人為的に作り出すこともできるかもしれない。

現在までに行われた遺伝子組換え作物に関するいくつかのメタボロミクス研究によれば、栽培環境の変化や従来の品種間での成分の変化の方が、遺伝子組換えによる成分変化よりもはるかに大きく、遺伝子組換えによる成分変化はあったとしてもその変化は非常に小さいことが明らかにされています。(p.204-205)

メタボローム解析によると遺伝子組換え作物が毒性を持っているわけではないし、食べた人に健康問題を起こすようなことは滅多に無いと言える。しかし。クリーンミート(感想文20-20)にあるように遺伝子組換えの問題は健康問題ではなく、巨大企業による市場支配だ。合成生物学の発展が食肉産業に大きな変革を起こすのと同様に、農産業にも大きな影響を与えることだろう。アレルゲンや毒性のない農作物や、有用物質を生産する微生物や植物の開発は進むことだろう。

石油や石炭をエネルギーや工業原料として使うことは、太古の昔に地球に降り注いだ太陽エネルギーを植物が上手に備蓄してくれていたものを、一方的に、そして短期間に大量に消費していることにほかなりません。(p.221)

食料の不足が解決されても残されている大きな課題がある。それは地球環境をどうやって維持していくかだ。これまでの長い時間をかけて備蓄されてきたエネルギーや資源を極めて短期間に消費し尽くしてしまっている。

プラネタリー・バウンダリー(感想文20-16)SDGsといったコンセプトが浸透しつつも、全く国際的な合意に基づく行動へと進展しない状況において、時間がどんどん失われ、リカバリーするチャンスが無くなっている。

改めて地球を見ると、ヒトが繁栄している星ではない。量的にも歴史的にも植物が支配している。ヒトは植物から毒を作り、薬を作り、知性に酔いしれているが、同族虐殺と環境破壊の愚かしさあふれる諸行を見る限りにおいては、星から排除されても抗弁できないほどだ。

改めて植物の偉大さを思い知らされる。私たちは植物から学ぶべきことはまだまだたくさんある。