本書の紹介文は、
東京大学教養学部主催の高校生と大学生を対象とした公開講座「金曜特別講座」では、教養学部の教員たちが学問研究の面白さや重要さをわかりやすく解説し、学びの羅針盤を提供し続けている。過去の名講義の数々を収録する。論理的思考力という武器を身に着け、あらゆる分野で縦横無尽に駆け巡るための、ガイドとなるシリーズ。今回が第2弾となる。人文科学の内容を収録。
とのこと。
こういう公開講座っていうのに行ったことがないけれど、今だとオンラインとかで簡単に聞けるかもしれない。
東京大学教養学部だが、現在は、大学院総合文化研究科長・教養学部らしい。キャンパスは駒場。ホームページによると、
教養学部・総合文化研究科は、リベラル・アーツ、学際性、国際性、進歩性の4つの特色を有しています。
とある。このリベラル・アーツが「教養」と訳される特色であり、幅広く様々なことを学ぶ場ということになる。
これが「教養」だ(感想文10-79)では、欧州的な大学教育と人格の陶冶について批判的に書かれていたが、東大が目指しているのは、旧態依然とした大学教育ではない。
現代に求められる教養とは、見通しよく整理された知識と、それらを活用できる能力のことである。あるいは、社会科学、人文科学、自然科学といった学問を体系化して学び、問題に応じてそれらを柔軟に組み合わせることのできる能力である。(中略)つまり教養とは、創造を生み出す原動力ともいえる。(p.006)
これは組織や専門家が陥りがちの「タコツボ化」へのアンチテーゼと言える。幅広くインプットし、それを組み合わせて多彩にアウトプットする。こういった能力が社会に求められているという考えだ。
本書の内容も実に多彩だ。原発/AI/平和/正義/先住民/フランケンシュタイン/ユダヤ人/源氏物語/かわいらしさ/作者の死/心理言語学/ダンテの神曲。
それぞれの専門家がわかりやすいが、どれもこれも大変よく考え抜かれたことがらについて丁寧に解説してくれる。歴史的背景、論点、似ている事例、他の言説との関係、(場合によっては)実験結果や観察された事項などを整理し、そうして本質が何であるかを示していく。
何より言葉が正確、ちがうな、言葉を正しく使おうとものすごく神経を尖らせていることが伝わってくる。難解さとわかりやすさのさじ加減が絶妙だ。
一方で、感想文にするのは難しい。個別に興味のあることはもう少し深く学んでみたい。さっぱり興味の持てないテーマもあったけれど、それはそれで良いのだと思う。人生ですべてのことを知り尽くすなんてとてもじゃないができない。
一方で、自分の知りたいこと、興味のあることばかりでも良くないだろう。知りたくないこと、興味のないことに、自分自身が無意識的に忌避している、知ろうとしない重要なことが隠されているかもしれない。
私も若いうちにもっと広くいろんなことを学びたかった。学問の世界が広くて自由であることを知りたかった。とはいえ、遅いということはない。まだまだ学べるし、学びを楽しめる。40歳を超えたけれど、まだまだ貪欲に生きていきたい。