40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文09-30:生き物たちは3/4が好き

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※2009年5月16日のYahoo!ブログを再掲

 

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邦題では「3/4」という数字が前面に出ているが、本書はそれに固執しているわけではない。

原題は、「In the Beat of a Heart: Life, Energy, and the Unity of Nature」。仮訳すると「心臓の鼓動:生命、エネルギー、自然の統一性」って感じ。これではきっと売れないね。

それはさておき、生物学では、物理学のような単純な法則を見出そうと様々な研究がなされているが、現時点ではっきりしているのは、「代謝率は体重の3/4乗に比例する」ということだけなのだ。

生物学は、多様性と統一的法則の間で揺れ動くシーソーのよう。万有引力の法則で地球上のリンゴは地面に落ちるが、そのリンゴが実をなし、落ちたからといって他の植物も同じとは限らない。物理学と生物学は全然違う。

このことについて正面切って、幅広く調査し、整理したのが、本書。冪乗則、ネットワークなどの数学概念やニッチといった仮説を取り上げ、分かりやすく解説している。

少し疑問だったのが、生物を支配する法則といえば、単純化すれば遺伝になると思うけれど、その点はあまり触れられていなかった。まあ、進化について書かれた本は多いから、差異化を図りたかったのかも知れない。

では印象に残った話を書いてみよう。

ゾウの「マスト(musth)」という現象。このことは全然知らなかった。オスのゾウが凶暴化する時期を「マスト」という。マストの時には、こめかみから茶色いどろっとした液体が分泌される。ゾウは穏やかな動物だとばかり思っていたけれど、バイオリズム的に機嫌の悪くなる期間があるようだ。

もう一つ。子育てのコストについて。先進国では少子化の傾向がある。これは生物学的な裏打ちがある。それはエネルギーコストの問題。先進国で子どもを一人育てようとすると多大なコストがかかる。

本書では「30トンのゴリラ」という表現をしている。確かに30トンのゴリラが地球上を数億匹うろうろしているとしたら、これ以上、増えようがないし、増えたら困るだろう。

巨大なほ乳類が何億匹も栄えることができないように、多大なエネルギーを消費するようなヒトは増えようがない。今はそういう状況にあるのだ。

昨今の少子化も問題は、生物学的な理由も検討する必要があるかも知れない。むしろ減らすことを考えた方が、良いのかも知れない。

本書は生物学研究の難しさ、そして面白さを分かりやすく示している。進化論が発表されて、まだ100年ちょっと。生物学の歴史はまだまだこれからだ。

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(感想文の感想など)

ウィキペディアによると、本書の3/4乗則?は、アロメトリー(allometry)の一つであり、生物の体の大きさにかかわらず、2つの指標(たとえば身長と体重)の間に成立する両対数線形関係とのこと。アロメトリーという用語があるのを初めて知った。

2019年7月14日のNature「進化発生生物学:アロメトリーではなく産卵生態と関連付けられた昆虫の卵のサイズ」によると、

最も見事な仮説でも膨大なデータという圧倒的な力の前では崩壊し得ることを示す華麗な一例であり、複雑な生物システムが単純なアロメトリースケーリング則に従い得る、という考え方に異を唱えるものである。

とある。なるほど、面白いな。エレガントな仮説であっても、膨大なデータが壊してしまうのか。