40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文09-55:ハチはなぜ大量死したのか

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※2009年9月2日のYahoo!ブログを再掲

 

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久しぶりに生物学に関する本を読んだ気がする。振り返ってみれば、ゴールデンウィーク中に読んだ生き物たちは3/4が好き以来だ。

本書は、セイヨウミツバチが一夜のうちにいなくなる「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)」という現象について書かれている。

驚くことに、世界中に生息するセイヨウミツバチの4分の1が近年いなくなっている。まさにミステリーだ。

ぼくが初めて知ったことは、ハチなくして農業は成り立たないという現実だ。セイヨウミツバチは唯一大規模に家畜化された昆虫(そういや養蚕っていうのもあるよな)であり、被子植物の農作物の受粉には欠かせない存在になっている。

アメリカでは移動養蜂家という商売があり、農作物を受粉させるためにハチを(まさに)売り飛ばして生計を立てている。一方で、単に蜂蜜を収集するだけの商業養蜂ではもはや商売は成り立たない。ハチは蜂蜜を集めるための道具ではなく、受粉させるための道具になっている。そして、自然に存在するミツバチでは到底受粉しきれないほどの農作物が生産されている。

現代の工業的農業の土台を支えるミツバチが、突如として消失する現象が世界各地で起きている(日本ではまだ起きていないし、日本にはニホンミツバチが主流とのこと)。

本書はその原因の探求を巡って、スリリングに展開する。天敵であるヘギイタダニ、イスラエル急性麻痺ウィルス、遺伝子組換え作物、はたまた携帯電話の電磁波、あるいは殺虫剤、いやいや宇宙人の誘拐説と、あらゆる犯人像が現れては消えていく。

また、同時並行的に読者はハチの社会性昆虫(雌と雄のある世界(感想文09-13)参照)としての生態も学んでいく。採餌蜂と育児蜂と女王蜂、そして雄蜂。個体は人間でいう細胞に近い存在なのかも知れない。多くの蜂はコロニーを保持する過程で死んでいく。これは人間の代謝に近い現象かも知れない。

本書を読み進めていくうちに、読者は恐ろしい現実を知ることになる。家畜化された現代のミツバチが過酷な労働環境に晒されていること。そして、そういう環境を作り出しているのは人間であり、ハチがいなくなるほどの環境で農作物が生産されているという現実だ。

特定の疫病が蔓延してミツバチが死に絶えたのではない。複合的な要因があり、自然が人間の都合で改変され、ハチがもはや生きていけない環境になってしまった。ミツバチの喪失はシグナルであり、自然の危機の表れだ。

ここまでの感想文だけ読むと、本書がよくある環境危機をアジテートする主観たっぷりの駄本の一つように思われてしまうかもしれない。本書は全くそうではないことをここで指摘しておく。緻密で冷静で客観的に書かれており、だからこそ現実の怖さをありありと感じる。

本書で印象に残った言葉に、ストレスが促進する衰退現象(SAD:Stress Accelerated Decline)とミツバチの自己免疫欠乏症(BAD:Bee Autoimmune Deficiency)がある。どういう名称にしようが、養蜂家の気持ちを率直に表現している。悲しい、酷い・・・。

英語ってこういう略語が上手いなぁと感心するときがある。例えば、FISH(Fluorescence In Situ Hybridization)とかART(Assisted Reproductive Technology)とか。DICE-K(Doxycycline-Inhibited Circuit Exocytosis-Knock down)はちょっと狙い過ぎだけど(笑)。

さいごに、福岡伸一さんが解説を書いている。動的平衡という福岡さんお気に入りのフレーズで本書を的確に評している。動的平衡の本も今度読もうかな。

・・・。

結婚式の引き菓子でもらった蜂蜜(スイス産)をホットケーキにかける。じーっとスプーンから流れ落ちる黄金のラインを眺める。今となってはハチ達の苦境を知ってしまったので、とてつもなくありがたいものに思えてきた。

本書は、ぼくのようにハチ自体に興味が無くとも楽しく読める。そして読み終えるとハチが愛おしくなり、飼いたくなるだろう。

世界に花が咲き、実がなる。この不変的とも思われる現象に果たすハチの役割は大きい。小さな社会性昆虫の行動が、煌びやかな自然を維持している。

本書を読めば、当たり前の世界が違って見えてくるだろう。

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(感想文の感想など)

2020年3月13日付のNewsweek記事「農薬がハチの幼虫の脳に害をもたらす」幼虫期への影響を解明する初の研究結果によると、幼虫期に農薬がどのような影響を及ぼしているのかを解明した初の研究成果として注目されているとのこと。

ネオニコチノイド(クロロニコチニル系殺虫剤の総称)がCCDの原因と疑われている。その名の通りニコチン様物質で、ヨーロッパを中心にその使用が禁止されている。

CCDについては10年以上前にこの現象を知っているけれど、何が原因であるかは未だにはっきりしていない。ナゾである。