40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文18-09:かくて行動経済学は生まれり

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※2018年4月9日のYahoo!ブログを再掲

 

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戦略的交渉入門(感想文17-59)を読むきっかけとなった研修の交渉学(入門)。先日、交渉学(応用)を受講することができた。かなり人気のある研修らしく、スムーズに入門から応用を受講できたのはラッキーらしい。

交渉学の学問的背景にある行動経済学。この新しい学問領域を切り開いたのは、2人の研究者だ。その2人とは、エイモス・トヴェルスキー(1937-1996)とダニエル・カーネマン(1934-)。

本書の著者は、マイケル・ルイスマネー・ボール(感想文16-28)の著者でもあることを知って大変驚いた。幅広い仕事ぶりに驚く。他の作品も読んでみたい。

ダニエルは子どものときホロコーストを経験した。エイモスは自信満々のサブラ(生粋のイスラエル人を表すスラング)だった。ダニエルは常に自分は間違っていると思っていた。エイモスは常に自分が正しいと思っていた。エイモスはどのパーティーに行っても主役になる。ダニエルはそもそもパーティーに行かない。(p.173)

二人は対称的だった。内気なカーネマンは何でも記憶するアイデアマンでありながら自信が持てない。外向的なトヴェルスキーは数理的な頭脳を持つ自信家だった。(p.428)

本書は2人の対照的な研究者の交流、そして別れを描いている。私は本書を読んで、おそらく他の一般的な読者よりも深くその世界に入ることができただろう。その理由は、イスラエルとバスケットボールだ。

2人の研究者はイスラエル出身であり、その出自が彼らの人生を決定づけている。そして、約1年前に私自身もイスラエルに海外出張したことがあるので、イスラエルの歴史について事前に学んでいたのだ(イスラエルを知るための60章(感想文17-14)参照)。

もう1つは、行動経済学の事例として序盤にバスケットボールのスカウティングについて描かれている。マネー・ボールでは残念ながら私はメジャー・リーガーを大して知らなかったので、選手をイメージしにくい話が多かったが、NBAならまだ土地勘があるので、全てではないものの知っている名前が多く出てきて、より楽しく読むことができた。

私をこの世界へとより深く引き込んでくれたということを踏まえて、気になる箇所を挙げておこう。

レデルマイアーが衝撃を受けたのは、人は間違えるという指摘ではない。人が間違えるのは当然だ!おもしろいのはその間違いが予測可能で系統的だということだった。それらは人間の性質に根差しているようだ。(p.246)

人はなぜ間違いを起こすのか。それは人であるからだ。むしろ間違うのは人間らしさであり、人間だからこそ系統的に間違いを起こしやすい。

人は効用を最大にするのではなく、後悔を最小にしようとする。(p.296)

ミクロ経済学では効用最大化(Utility Maximization)について学ぶ。効用を最大化することが社会全体の幸福であり、正しい政策であるということを叩き込まれる。よって、独占、負の外部性、一般的な税などは死荷重を生み出し、効用を減らすということで否定される。

他方で、人間の行動は効用を最大化しようとしない。後悔最小化(Regret Minimization)が行動経済学から導き出された結論である。この点が興味深い。人間はできるだけ得するようにではなく、なるべく損しないように行動しているのだ。

脳には限界があり、人の注意力には穴がある。ダニエルとエイモスが切り拓いたその新たな人間像をもとに、「行動経済学」は生まれた。(p.395)

今では効用の最大化や合理性といった伝統的な経済学でなく、人間のインセンティブを考え、人間の行動全てに関わるのが経済学という学問になっている。人間は合理的に行動するという思い込みから逃れ、より現実に則した学問へと発展している。

直感と合理のキメラは、ネット社会では疑似ニュースとビッグデータの合体という怪物を生んだ。それがブレグジットやトランプの「計算された逆転」の正体なのだ。(p.428)

解説にはこのように書かれている。またこの解説では、黒幕起業としてケンブリッジ・アナリティカ(CA)が示されており、少し調べるとその疑惑でちょうど盛り上がっている。

人間は自ら思っているほど合理的ではなく、また思っているほど利口でもない。簡単に騙されるし、自分が信じていることしか見えないし、自分に都合の良いように情報を解釈するばかりか、あろうことか作り出してさえしてしまう。

このことは、今の日本国民が政府に騙されているという可能性を意味しているだけでなく、反対勢力側も同様に反政府組織に騙されている可能性すら指し示している。

人間の能力は素晴らしいもので、部分的な情報であってもそれらをつなぎ合わせ、結論を導き出すことができる。しかし、同時に人間は愚かなもので、一度導き出した結論について間違っているかもしれないと考え直すことは難しく、その結論を補強するような情報ばかりを選択的に取り込んでしまう。

情報は反乱し、またその情報が正しいかどうか事細かに検証することは不可能である。人間が作文している以上、偏りのない記事などなく、写真や動画であっても切り取られ、編集され、加工されているかもしれない。

結局は事実というものを選び抜くことはできないので、自らが正しいと思い込んでいることを土台にして、物語を構成してしまう。事実でなく、正しさに基づき論争が生まれると、反論された側は正しさを否定されるので、人格にまで踏み込まれたように感じ、感情的になってしまう。

面倒な時代になったものだ。フェイクニュースSNS、さらには人工知能まで導入されてくると、人間は簡単に意図したとおりに行動変容するかもしれない。ブレグジットもトランプ勝利も計算されたイベントだとしたら、もはや一個人では抗うことができないどころか、行動を変えられてしまっているということにすら気づかないだろう。

行動経済学はそこに対抗するための武器になると同時に、気づかないうちに行動を思うように変えてしまうツールとして使えることだろう。利口で愚かな人間。自らへの理解を深める一方で、得られた知見の使い方とのその影響までは理解が及ばないのだろうか。

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(感想文の感想など)

ケンブリッジ・アナリティカ社は、フェイスブック個人情報流出問題で情報の不正取得が疑われ、2018年5月2日に破産手続きを申請したことを発表し、同日付で全ての業務を停止した。関連する本を読んでみたい。