40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文17-36:貧困と闘う知

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※2017年8月13日のYahoo!ブログを再掲

 

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貧乏人の経済学(感想文13-05)の著者の一人であるエステル・デュフロによる本。タイトルがカッコイイ。

本書の存在を知ったのはピケティと並ぶスター経済学者が政策研究にもたらした「ある革命」という記事からで、ランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)が政策研究に活用されているということに強い興味を覚えた。

本書の特徴は、何よりもまず、ランダム化比較試験(RCT)の手法を駆使しているところにある。この統計学の手法は臨床医学の分野で一般化したものだが、近年、社会科学の分野でもさかんに応用されるようになってきた。(p.186)

と、訳者解説に書かれている。RCTと言えば治験であり、私が大学院生時代に学んだ手法であった。こういったことが実証主義的な政策研究にまで応用されていることは驚きだ。

本書全体を俯瞰すると、第Ⅰ部では公共介入が期待される教育・保健衛生セクターにおいて民間のアクター(とりわけNGO)が果たす役割が重視され、第Ⅱ部では民間の活力が期待される小規模金融や地方分権において公共のルールが果たす役割が重視されるという逆転の発想が見られるが、デュフロ氏の議論の運び方は非常に慎重かつ周到である。(p.189)

本書は2部構成になっており、第1部が教育と健康、第2部がマイクロクレジット地方分権である。

アフリカは私が小さい頃から、今に至るまでずっと貧しいままだ。内戦を繰り返し、感染症は蔓延し、食料は不足し、教育を受けることができず、政治は腐敗している。多くの支援や取り組みが投入されたにも関わらずだ。

このアプローチは、経済学者と政治学者の両方の支持を受けて、政策に関する言説の性格を深く変化させた。私たちは制度の構造を、理論的かつ一般的なやり方ではなく、個別的かつ具体的なやり方で問い直さざるをえなくなってしまっているのだ。(p.99)

どういった介入が適切で、どのような政策が良い結果を生み出すのか。理論や一般則では立ち行かなくなっている。RCTは限定的かもしれないが、具体的な取り組みについてその効果を明らかにしてくれる強力なツールだ。実際には試験をどのようにデザインするかが、研究者にとっての腕の見せどころであり、工夫や知恵が詰まっている。ここが知と言えるだろう。

気になった箇所を挙げておこう。

健康を改善するために行動しなければ、貧困と闘うことはできない。毎年900万人近くの子どもたちが、5歳になる前に命を失っている。そのほとんどは、麻疹や下痢など、予防も治療もできたはずの病気が原因である。(p.58)

健康問題は未だに大きな課題に一つである。体の弱い子どもと老人が犠牲になる。毎年900万人近くの子どもが命を失っているという現実に戦慄する。こんなにも多くの命が救えない。

予防ケアに対する需要の弱さと価格感受性の強さ、および治療ケアに対する需要の強さと価格感受性の弱さは、おそらく、予防医学のメリットが過小評価され、治療医学のメリットが過大評価されているのだろう。このことは、治療と健康状態の間の因果関係の複雑さによって説明することができる。(p.78)

途上国では予防にお金を出そうとしない。病気になったら治して欲しいから、お金を出す。分かりやすい心理ではあるが、そのために対応が遅れてしまう。途上国で蔓延する感染症のワクチン開発が行われているが、実際にそれらが活用されるかというと、難しいかもしれない。安価な治療薬こそが強く求められている。

マイクロクレジットは、現代的な高利貸ではなく、万能薬でもなく、ただ単に自らに与えられた役割を果たしているにすぎない。つまり、信用市場から切り離された潜在的起業家に対して、プロジェクトを実現できる可能性を提供するのである。しかし、すべての人が生まれつき起業家だというわけではない。したがって、マイクロクレジットは普遍的な解決策にはなりえないことになる。(p.131)

ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家(感想文09-54)で知ったマイクロクレジットすべての人が生まれつき起業家だというわけではないというのはごもっともだ。万能ではないが、マイクロクレジットによって貧困から開放された人も少なくはない。

貧困対策には、有効かつ具体的な策が求められている。しかも実証可能である。過去の成功体験でも一般則でも思いつきでもない。

貧困はなくなるだろうか。人類に課せられた重い課題の一つだ。科学技術が進展した今でも貧困は解決していない。科学技術だけでは到底不充分である。しかし、科学技術が長年かけて研磨してきたツールは貧困対策に有効であろう。

いつか貧困がなくなる日が来ることを強く願っている。

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(感想文の感想など)

日本でも貧困、あるいは格差が社会問題化している。とはいえ、まだ日本で貧困問題にRCTが適用された事例はざっと調べた限りでは見受けられなかった。