40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文14-43:移植医療

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※2014年9月4日のYahoo!ブログを再掲

 

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先進国で圧倒的に足りていないもの、大きな超過需要となっているものの一つが臓器だ。移植医療という技術は古くからあるが、臓器が足りないからこそ、様々な問題を起こしている。

足りない臓器をどうやって集めるか。生きている人(生体移植)、病気の人(病気腎移植)、亡くなりそうな人(脳死移植)、亡くなった人(心臓死移植)。そして、究極的には臓器を作り出す技術(再生医療)が期待されている。

本書は、多様で複雑な問題を抱えている移植医療を丁寧に解剖し、分析し、整理している。移植医療の解剖図といっても良い。新書なのでコンパクトであるが、読み応えのある一冊だ。

気になる点を挙げておこう。

4割に及ぶ不自然死からの脳死下臓器提供で、死因究明が適切に行われていたか、その結果どのような亡くなり方をしたと判断されたかが完全に明らかにされていない現状は、問題といわざるをえない。

死因不明社会(感想文08-15)にあるように『日本の解剖率はわずか2%』だ。なぜ亡くなったのか日本ではほとんど分かっていない。同様になぜ脳死になったのかも、臓器提供が行われたにも関わらず、分かっていない。

いま海外で進められている心停止後臓器移植とは、自然な経緯をたどっての死亡ではない。(中略)延命治療の中止による心停止、つまり「消極的安楽死」させた人からの臓器提供なのである。

消極的安楽死からの臓器提供が海外で進められているとのこと。オランダやベルギーなどでは消極的安楽死が法的に認められている。延命治療を拒否し、亡くなったら臓器を提供しますと同意する。これは美談に聞こえそうだけれど、果たしてどうなのだろうか。

東京腎臓売買事件は、A医師夫妻が前後二度にわたって暴力団関係者にドナー探しを以来し、ドナーの引き受け手と虚偽の養子縁組をした二つの事件からなっている。

ウィキペディアでは『生体腎移植臓器売買仲介事件』として掲載されている。臓器も市場に流通しうる財であり、その流通を禁止すると、こういった暴力団が入り込む余地を生み出してしまう。だからといって、売買を解禁することが望ましいという声ももちろん経済学者からはあるけれど、なかなかすんなりと納得できるということでもない。

脳死者からの膵臓の摘出と移植は移植法の規制を受けるが、膵島は臓器でなく組織で、移植法の対象ではないとされ、公的な規制を受けない。だが実際には、膵島でも提供者の膵臓を全部取り出してから移植に用いるのだから、法の対象外となるのはおかしい。

この点も重要だ。臓器のフレーム問題と言える。どこまでが法の対象となる臓器なのか。その境界線にあるものの一つが、膵島細胞のようだ。法と実態がフィットしない。フレーム問題は技術の進展によっても発生するだろう。

一連のSTAP細胞騒動の背景には、再生医療実現への期待が、研究界だけでなく、政財界まで含め一般社会全体であまりにも過剰になっていうることがあるだろう。研究者が成果を出すことを焦るあまり不正を行うのは、もちろん許されない。だが、悪者を懲らしめて終わらせるのではなく、過熱ぶりを冷ます反省材料にもしてほしいものである。

まだまだ終わりの見えないSTAP騒動。持ち上げて叩き落とすという何度も見てきたマスコミの手法。この手法は情報を売るために効果的で、要するに他人の不幸は最高のエンタテイメントであり蜜の味なのだ。再生医療生命科学についてはまた別の感想文で考えてみたいが、本書にある冷静な主張は、例外的で、これを読んで少し救われた気がした。

研究者や研究機関が、経済成長の国策に沿った成果を求められ、特許の出願など経済的利益の確保に心をわずらわされて、研究の筋道や内容をおろそかにし、不正まで見逃すようになっては、本末転倒もはなはだしい。

これも真っ当な指摘だと思う。今の大学や研究機関はイノベーションの大号令の下で動いている。特許出願が研究助成金獲得の条件になっている場合もある。

とはいえ、アカデミック・キャピタリズムを超えて(感想文10-68)にあるように科学は清廉潔白でなく、結局はどこからカネを引っ張ってくるかという問題がついて回る。

よって、パトロンの意向には逆らえない。科学は美しい世界に見えるのかもしれないが、実態は決してそうではない。

本書は、法律や倫理という観点から描かれている。それはクリアで良いのだけれど、マーケットデザインによる臓器マッチングといった経済学の視点からの取り組みといったことについても取り上げて欲しいなと思った。

臓器不足を解決するのは、科学や技術だけではない。規制の枠組みを変えたとしても、新しい技術によって機能不全を起こすこともある。移植医療が様々な問題を引き起こすのは、臓器が足りないからだ。最先端科学によってストレートに解決するまでに時間がかかる。不足を少しでもマイルドにする多くの知恵にも私は期待している。

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(感想文の感想など)

日本臓器移植ネットワークによると、国内では約1万4千人が移植を待つが、実現は年間2%とのこと。圧倒的に超過需要なのは変わっていない。