40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文19-07:日銀日記

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※2019年4月15日のYahoo!ブログを再掲

 

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著者は、岩田規久男(いわた きくお、1942-)さん。岩田さんは、2014-2018年度の5年間、日本銀行副総裁を務め当時の日記をまとめたものが本書となっている。

歴史や最新のニュースやSF的な未来のことに興味のある方は多いし、そういった情報はたくさんあるのだけれど、こういう近過去情報は存外少ない。ニュースとして扱うことはできないし、評価がはっきりしていない事柄に関する当事者情報はその取扱いには慎重にならざるを得ないのだろうか。

本書はタイトルどおり日記形式となっている。経済学への理解が乏しいくせにやたら居丈高な国会議員、それを諌めない政党への辛辣な批判など、実名を含めて赤裸々に描かれている。一方で、野党議員であっても経済政策に理解のある議員と交友関係があることも記されている。要職を離れたからこそ、そして日記形式だからこそ、なせる面白さだ。

本書を読むまで、私には、財政政策と金融政策の違い、っていうかそもそも別物だという理解すらなかった。本書を読んで、財政と金融の関係、さらには日本が抱える課題、ユーロ圏における政策判断の難しさということへも理解が進んだ。

40歳である私の日本経済への同時代的な実感・印象をまとめておこう。

中学生くらいまで:景気が良かったのだろう。あまり実感はないが、小学生の頃にお年玉で1万円もらったのと、親が急に絵画を購入したことが、覚えている限りの私的なバブルっぽい出来事だろうか。

高校生から大学生:景気が悪くなったように思う。親戚が事業に失敗し、借金の無心に来たこともあった。後付でバブルという時代があったこと、そしてデフレ・スパイラルという現象が起きていることを知った。

大学院生から就活:いわゆる就職氷河期だった。わりとキラキラした学歴だったので、就活は余裕だったが、だからこそ嫌になって就活を辞めた。社会全体に閉塞感しかなかった。村上龍の『希望の国エクソダス』とかを読んでたな。遅い中二病時代。

社会人時代(その1):特に就活せずに、大きな会社の小さな子会社に就職した。その子会社の創業時からのメンバーとなった。年収は200万円くらいだった。でも自由で楽しかった。本を経費で買ってくれたので、好きに勉強できた。充実していたけれど、裕福ではなかった。とはいえ、お金を使う趣味もなかったし、デフレ経済だったので、生活に困窮することはなかった。この頃に結婚もした。稼ぎは民間企業で正社員の妻の方がはるかに多かった。養ってもらっていた時代とも言える。

社会人時代(その2):前の会社が傾き出したので、転職した(その後、その会社は潰れた)。任期付きとはいえ、運良く政府系機関に職を得ることができた。給料は倍以上になった。子どもが生まれた。毎日の生活に精一杯で日本経済への印象は乏しい。

民主党政権時代(2009-2012):某省庁に出向中に政権交代があった。国民が自民党にお灸をすえたわけだが、羹に懲りて膾を吹くように、同時に民主党への強烈なアレルギーショックも引き起こしたと思う。特に地震後のゴタゴタは酷かった。日本経済がガチでヤバい。そんな時期だった。そりゃ党名変えるよね。

その後から現在:経済が良くなったのかその実感ははっきりしない。少なくとも不況で閉塞感しかなくてどないしたら良いんだという感じからは抜け出したような気はする。難民、トランプ政権誕生、ブレグジット北朝鮮問題と国際情勢は落ち着かない一方で、国内情勢は安定していると思う。もちろん全く問題がないわけではないけれど。

一方で、経済政策で失敗した国家が出てきている。筆頭はベネズエラと韓国だ。前者は社会主義的な政策によってハイパーインフレを起こし、国民が国家から逃亡している。後者は最低賃金保障の価格規制が労働市場を壊滅させる生きた事例になっており、教科書に載せたいほどだ。共通するのは社会主義的な政策を採用したことだ。

前置きが長くなってしまったが、改めて日本の金融政策である「量的・質的金融緩和」に注目したい。しかし、現段階ではその評価ははっきりしない。失敗政策は短期的に効果が表れる(ダメにするのは簡単)のでわかりやすいのだけれど。

日銀にせよ、政府にせよ、予測の専門家と自称するエコノミストにせよ、誰も「市場を思い通りに動かす」ことなどできないことは自明である。リフレ派がいう「インフレ予想の形成に働きかける」とは、(中略)「15年以上も続いたデフレのために、人々の間に強固に定着してしまったデフレ予想を「量的・質的金融緩和」によって打ち砕き、人々が次第にインフレを予想するようになる」という意味で、「人々のインフレ予想形成を促す」ことに他ならない。(p.191)

私はインセンティブの問題と理解している。日本国民はインフレしないと思っているから、お金を貯め込み、使わず、デフレが固着する。企業も同じで設備投資をしなくなる。こうして経済は衰退していく。物価が上がらないなら、倹約するようになる。これは良い悪いではなく、行動変容、つまり、お金を使わせるためには、金利を下げ、借金しやすくし、個人であればローンで家を買ったり、企業であれば借り入れして新規事業を始めたり新しい工場を建てたりする。金利は下がったが、インフレは起きていない。株価は上がったが、給料は上がっていない。この政策の正否を判断するにはまだしばらく時間が必要だろう。

バブル崩壊後の金融危機は、資本主義の根幹である「信用の危機」であるため、長い時間をかけた信用の大収縮(負債の大圧縮=借金の返済、新たな借金の抑制)という調整を経なければ、回復は難しい。この回復を早めようとすると、政府支出の大幅増加や大減税が必要になり、今度は、ユーロ圏で典型的に起きたように、政府が債務危機に陥る。そのため、残された景気回復手段は、金融政策が中心になる。(p.418)

なぜ日本は失われた20年とか言われるほど、長い時間、経済が低迷・停滞したのだろうか。結局はバブル崩壊の後遺症が長引いているのだ。ようやくトンネルから抜け出せそうかと思ったが、消費税増税で回復が遅れるかもしれない。

例えば、金銭を支払って解雇する、金銭解雇を解禁すべきではないか。この解禁は、失業率が2%代後半まで低下し、有効求人倍率が1.49倍まで上昇し、正規社員の有効求人倍率もほぼ1倍になった現在のような雇用環境の下でこそ、摩擦が少なく、実施できるはずである。すなわち、解雇されても転職可能性が高いのである。(p.372)

日本で真っ先に規制を緩和すべきなのは雇用規制である、と思う。労働契約法改正による無期転換ルールとかは最たるもので、労働者の流動性を阻んでいる。世の中の変化がこんなに激しいのに、雇用の岩盤規制は労働者を守っているようで、結果的にブラック企業を生み出している。ブラック企業はその経営者「だけ」が悪いのではない。経営者の行動をブラック化させるように促しているルールも悪いのだ。

先程、他国の政策を批判したけれど、日本も同様で、今の労働規制は愚かの極みであり、長期的に日本経済を停滞させるし、こちらも教科書に載せるべき失敗政策である。即効性と遅効性の違いなだけだ。消費税増税反対、労働規制の緩和、これをマニフェストに据える政党はないのだろうか。

メキシコからの輸入関税を財源とする壁の建設費用は、メキシコ人だけでなく、アメリカ人も負担するのだ。メキシコからの輸入品がアメリカ人にとって必需性が高ければ高いほど、アメリカ人が負担する輸入関税の割合は大きくなる。(p.347)

これは税と価格弾力性について非常にわかりやすい事例だ。税は、消費者が実質的に払う金額も生産者が実質的に得る金額も消費者余剰も生産者余剰も税収も取引量も、買い手に課税しても売り手に課税しても一緒だ。一方で、価格弾力性の低い財・サービス(=必需品)に税をかけると消費者の負担が大きい。基本的なことだが、そんなことをトランプ大統領に諫言できない状況は極めて不健全だ。輸入関税で壁を建てることが決まれば、こちらも教科書に載せたいほどの失敗政策となる。

こうやって見ていくと、人間はいかに愚かで学ばない生き物なのかと戦慄を覚える。もちろん私自身も例外なく愚かな人間の一人だ。世界は混沌としてきているが、改めて日銀副総裁だった岩田さんの人生を追体験することで、今の日本が見えてくるだろう。

ただし、「量的・質的金融緩和」の効果の程は未だにはっきりしないのだが…。

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(感想文の感想など)

日銀の「量的・質的金融緩和」政策は維持されている。コロナの影響もあって、その効果は見えていないのは変わりない。金融政策に効果があったのかなかったのか、まだ結論は出そうにないが、効果があったとは現時点では到底言えそうにない。