40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文17-34:人類50万年の闘い マラリア全史

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※2017年7月11日のYahoo!ブログを再掲

 

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医薬品とノーベル賞(感想文17-28)を読み、マラリアについて調べたくなり、辿り着いた本書。そもそもマラリアとは何か。ウィキペディアによると『熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症』とある。

私にとって初めての海外旅行の目的地はケニアだった。黄熱病の予防接種は受けたが、マラリアはワクチンがなく、とにかく長袖を着て、蚊に刺されないよう気をつけていた。結局は、全く蚊にさされることなく帰国し、健康面での問題と言えば、現地で食べすぎて腹痛になった程度だった。

マラリアは当時から大きな問題であったが、さすがにこれほど科学が進めばだいぶ制圧されたかとばかり思っていた。ところが現実は全く違った。

WHOによる最新のマラリア報告書によると、2015年の推定感染者数が2億1,200万人、推定死亡者数が42万9,000人である。年間に43万人もあの世に連れて行く激烈な感染症で未だに猛威を奮っている。近年、確かに感染者数や死亡率は大幅に低下しているとはいえ、マラリア撲滅への道はまだまだ遠く、終わりは見えない。

ゲノム編集とは何か(感想文16-39)で紹介されていた遺伝子ドライブによってアフリカの蚊を駆逐できるかもしれないが、果たしてどうだろうか。バッタを倒しにアフリカへ(感想文17-30)に登場するサバクトビバッタのことを考えると、ハマダラカはより小さく、さらに広い土地によりたくさん生息している。それらを駆逐するのは果たして現実的なのだろうか。

マラリアの原因は蚊ではなく、あくまで原虫だ。蚊は運び屋であり、有性生殖の場である。考えてみると、蚊は確かにマラリアに限らず様々な感染症の原因となる厄介な生物であるが、マラリア撲滅のために駆逐されてしまうというのは、蚊の気持ちになるととばっちりとしか思えない。

遺伝子ドライブは興味深い試みであり、もしかしたらサバクトビバッタにも有効かもしれないが、人間の都合で特定の昆虫を絶滅させるという取り組みは、どうも感心しない。自然界への過剰な介入なのではないだろうか。

話が逸れた。マラリアの話に戻ろう。

まず50万年の長きにわたって人類と蚊とを手玉に取り続ける、マラリア原虫の驚異的な技です。抗マラリア剤をたちまち無力化し、私たちの防御機能-免疫を巧みにすり抜けて、微塵も衰えることなく人類集団の中に居座り続ける様を見れば、薬剤耐性細菌の脅威などは単純なものに思えるくらいです。(p.376)

と、訳者あとがきに書かれているように、マラリア原虫は強かに生き延びている。キニーネDDTによってマラリア原虫は制圧されたかに見えたが、人間の知恵に抗い生き続けている。

マラリア原虫は、巨大ウイルスと第4のドメイン(感想文16-19)の説明にあるように、ヒトと同じ真核生物のドメインに属する。蚊の吸血時に体内に侵入し、無性生殖によって増殖し、再び蚊に吸われて蚊の体内で有性生殖する。これがざっくりとしたマラリア原虫の戦略だ。

マラリアは多くの人々には「穏やかな」病気かも知れない。だが、この病気にかかると他の病気にかかりやすくなることが、20世紀初頭以来分かっている。(p.104)

マラリアで本当にヤバイのは熱帯熱マラリアで、致死的な感染症だ。とはいえ、それ以外のマラリアでは死ぬことはほとんどなく、周期的に高熱が出る。しかし、他の病気にかかりやすくなるというのは、キツい。マラリアにより脆弱化し、健康状態が悪い方向へシフトしてしまう。

スプレーガン戦争の失敗によってわかったことは、マラリアを解決法が一つしかない疾患として処理することの愚かしさだった。というのは、この戦争が失敗に終わった時点で、ざっと1000ほども失敗の理由が挙げられたのだから。(p.335)

スプレーガン戦争とはDDTの噴霧によるマラリア根絶運動のことだ。結局は、DDTに耐性のあるハマダラカが出現し、挫折に終わる。

本書では、人類が50万年もの長きにわたってマラリアとともに過ごしてきた歴史を描いている。マラリア原虫という微生物は凄まじい数の人類を死に追いやってきた。未だに闘いは続いており、ヒトが勝つという確たる未来は描けていない。

それでもいつか科学技術が数多の感染症を制圧する時が訪れると信じている。

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(感想文の感想など)

世間はすっかり新型コロナ感染症でパニックとなっている。遠い発展途上国で起きているマラリアやNTDsに思いが馳せられることはほとんどないし、切望されている治療薬やワクチン開発に必要なリソースはコロナの後回しにされ、投下されない。

そりゃあ、コロナワクチンのほうが遥かに儲かるからね。