40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文21-15:アパレルの終焉と再生

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知らない業界について学ぶのは刺激的だ。仕事柄、アパレル業界とは接点がなく、おしゃれな服を買わないし、最先端のファッション動向も皆目検討つかない。

40歳を過ぎると、そもそもどういう服を着れば良いか分からない。仕事では、基本的にスラックス、ワイシャツ、ジャケット、革靴という出で立ちになるが、コロナ禍になってからオンラインでの打合せが増え、カジュアルな出で立ちの在宅勤務者と打合せするようになると、出勤者が旧態依然としたビジネス・スタイルを維持する意義も規範も薄まり、ジャケットをスポーティなアウターに変更して出勤するようになった。あまりカジュアル過ぎると守衛に止められやしないかという心理と、毎日会社に着ていけるような私服を持ってないという現実のため、スラックスとワイシャツは維持している。

未だにネットで服を買うことに違和感があり、必要な服を店舗で購入しているが、購入している店はここ数年1つしかない。以前は代官山のセレクトショップに行っていたが、店のコンセプトと私の好みがややズレ始めたのと、若干遠いので、長らく訪れていない。服を選ぶのは面倒だし、そこそこの価格帯で清潔感があって他の人とかぶりにくく、ラフに着れるのであれば、文句はない。

衣食住のうち、衣への出費は圧倒的に少ない。年間、平均すると10万円もかけていないだろう。なにかの備忘録的に現時点での私の衣について書き留めておいた。

前置きが長くなった。扇動的なタイトルに惹かれ、そしてこれまでアパレル業界に関する本を全く読んだことがないなと思い至り、本書を手にとった。

シーズン毎にトレンドを仕掛けて買い替えを煽り、あの手この手で「ブランド神話」を創造して付加価値を乗せ、過剰に供給して過半が売れ残るアパレルの多産多死型ギャンブル流通がコロナ・クライシスで行き詰まり、過剰な店舗やブランド、過剰な企業や雇用が、潮を引くように消えていく。(中略)美辞麗句の建前にとどまっていたエシカルサステナブルな社会が、コロナ危機というカタストロフィを契機に否応なく実現されていく。コロナ危機は産業革命以降の近現代文明の終焉と再生という壮大なドラマの幕を上げたのではないか。(p.4)

本書は冒頭から大変辛辣である。コロナ禍に陥る前からすでに破綻しつつあったアパレル業界は、コロナ禍で完全に息の根が止まった。もちろんユニクロやワークマンのように業績を伸ばすブランドもあるが、電子商取引(EC)への移行が遅れたり、休業要請を受けた百貨店に多く出店していたブランドはもろにコロナ禍の影響を受けた。

百貨店もいよいよヤバい。デパ地下はいつも賑わっているが、衣料品のフロアはコロナ禍以前から閑散としていた。我が家には車がないので、百貨店の存在は有り難いのだが、百貨店が服を売らなくなる日はそう遠くないかもなと思っていたものだった。

アパレル製品は需要に倍する過剰供給が止まらず、1999年以降は業界供給量の半分前後が売れ残る異常事態が続いており(中略)生産倉庫の在庫は供給量の枠外だから、過剰供給の実態はもっと深刻だ。(p.98-99)

2020年2月のナショナル・ジオグラフィックの記事「急増するファスト・ファッション、廃棄物は減らせるか?」を読み、フードロス問題同様、衣類廃棄物問題の存在を知り、アパレル業界が気になった。実際に供給量の半分以上が売れ残ることに驚いたと同時に、なぜこんな無駄なことを…と驚くばかりだ。

近年のアパレル業界は過剰供給で収益力が落ちているから、廃棄処分を選択できるアパレルは極めて限られる。「売れ残りイコール廃棄」というイメージはアパレル業界が儲かっていた往時の残像なのだ。(p.107)

しかも悲しいことに、廃棄処分をする体力すら残されていない。自らアウトレットを立ち上げ、それでも売れないものはOPS(Off-Price Store)が二束三文で買い叩いていく。安い服が市場に溢れ、高く新しい服は売れ残り、ダブつく。

ファッションビジネスには相反する二つの理念がある。ひとつは夢を売って付加価値を訴求しようというインフレ志向の「クリエイションビジネス」、ひとつは効率的な仕組みで顧客の求める商品をお値打ち価格で提供しようというデフレ志向の「サプライビジネス」だ。(中略)「クリエイションビジネス」は顧客を限定すれば成り立つが、小さな成功を手にした者は、大きな成功を求めてリスクとコストを肥大させ、いつしか顧客とすれ違うようになる。「サプライビジネス」は顧客を広げないと成り立たないが、事業規模を拡大すれば運営コストが肥大してお値打ち価格での提供が難しくなり、いつしか顧客とすれ違うようになる。(p.200-201)

今後のアパレル業界はどうなるか。環境問題やSDGsを勘案すると本書では、エシカルな「需給一致デフレ・サプライビジネス」に転ずるほかないとしている。

他方で、ハイリスクでギャンブル要素の強い「クリエイションビジネス」も否定しているわけではない。服装やファッションに夢を描いている人は、クリエイションビジネスを指向するのであって、それがないと若く才能のある人は参入しないろう。

実用品よりも美術品としての性格の強い、一点物のオートクチュールのような高級服の市場は今後も存在するだろう。オートクチュールを必要とする大金持ちがどれだけいるのかわからないが、多くのデザイナーを食べさせていけるほどではない。そのファッション大好きな大金持ちをインフルエンサーにして、独自のブランドを立ち上げる、となれば良いが、ビジネス規模を拡大し、流通まで考えるとなると、今のアパレル業界と同じ運命を辿ることになるだろう。

フードロスを極力減らしていくのと同様に、衣類の供給過多を是正していくのは、業界としての正義に当たる。EC、DX、C2Mなど本書ではキーワードが盛りだくさんで、終焉した業界だからこそ新しい取り組みで再生していく芽が出つつある。

食品業界の持続可能性についてはクリーンミート(感想文20-20)で考えたが、本書はアパレル業界の持続可能性について考える重要な資料となった。

衣食住の一つである衣。私たち人間が生きていくために欠かせない要素であり、持続可能性について本気で考えていく対象でもある。

私もいち消費者として持続可能性を意識して行動していきたい。