40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文21-26:「スパコン富岳」後の日本-科学技術立国は復活できるか

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コンピュータ開発の果てしない物語(感想文21-25)に続く、スパコン関係の本2冊目。

著者は小林雅一さん。これまでに小林さんの著作でクラウドからAIへ(感想文14-10)ゲノム編集とは何か(感想文16-39)を読んだことがある。

本書では、最近、4期連続で4冠を達成したことで話題になった「富岳」を取り上げている。そしてそのスパコン富岳を通じて、日本の科学技術立国復活を期待させる、最近の科学技術界隈では珍しい希望の光を示している。

巨額の開発資金、そして大規模な設計チームの並外れた頭脳と集中力が求められるスパコン・プロジェクトは、その国の経済規模や科学技術力など国力を反映すると言われる。(p.3)

富岳の開発費は1300億円(国費1100億円、民間200億円)だ。これを安いと見るか、高いと見るかは比較対象によるだろう。

例えばアメリカのスパコン開発費はもっと安いという説がある。分野は違うがロケットや人工衛星などの研究開発をしている国の研究機関であるJAXAの予算は約1571億円(2021年度本予算)。科研費(正式には科学研究費助成事業)の総額は2347億円(2020年度予算額)だ。さらに巨大な国家プロジェクトである国際リニアコライダー(ILC)は総額約7000億~8000億円とのこと。ちなみにオリンピックの大会経費は1兆6440億円。イーロン・マスクの総資産は17兆2000億円。だんだん、金銭感覚がおかしくなってくる。

本書を読めばわかるが、スパコンの開発は金をかければなんとかなるものではない。計算性能だけでなく、使いやすさや省エネも重要な指標となる。

では、実際にスパコンは何に使うのだろうか。

天気予報に見られるように、ある種の自然法則(数式)にもとづくモデルを設定し、そこに各種データを入れて計算することで未来の動きを予測する行為は、一般に「シミュレーション(模擬実験)」と呼ばれる。そしてスパコンの最大の用途が、このシミュレーションである。(p.24)

もちろん、計算するためだ。天気の予測や自動車の空力計算など、日常生活を送るために大量の計算が行われている。その計算がどういうもので、どれくらい大量なのか、私も含めてほとんどの人は把握していないが、生活のために大量の計算は欠かせず、その計算をするための機械としてスパコンが日々働いている。

産業界がスパコンをビジネスに導入することの価値に気付いたからでしょう。たとえば「航空機の空力設計」「量子化学」「材料研究」「データマイニング」「ノイズ削減」など数えきれないほどの用途があります。最近は特にディープラーニングなどAI分野でスパコンの利用が活発になっていますね。(p.107)

スパコンそれ自体のビジネスは活況だ。何かを開発する際に、理論と実験だけでは不十分で、そこにシミュレーションが加わった。開発速度を高め、コストを下げるためにシミュレーションは欠かせない。スパコンは産業の基盤でもあるのだ。

私たちは物理世界に生きている。物理世界は数式で表すことができる。しかし、精緻に物理現象を数式で記述しようとすると、大量の計算が必要となる。そこで計算性能の高いスパコンの出番となり、そのためにスパコンの開発が必要である。

スパコンは科学技術全体の押し上げにつながり、産業の発展につながる。アメリカ、中国、日本の3か国が熾烈なスパコン開発競争を繰り広げている。サイエンス、産業、国際政治が絡み合ったスパコン開発プロジェクトに終わりはない。

富岳の次はどういうスパコン開発が行われるのか、大変興味深い。