40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文22-06:少年と犬

 

会社の部下からお借りした小説。著者は馳星周さん。2020年に本作で直木賞を受賞とのこと。馳星周さんと言えば、新宿を舞台に描かれたバイオレンスミステリーの傑作でありデビュー作の「不夜城」のイメージだったので、驚いた。不夜城を読んだときはまだ関西にいて、新宿には近づくまいと心に誓ったものだ。

さて、わが社では今年度から今はやりの1on1ミーティングが本格始動し、10名いる部下を毎月1回30分、1on1で面談しないといけない。

テーマは部下が決めて、上司である私の役割はあくまで傾聴である。上から目線で教え諭すのではなく、仕事へのモチベーションを維持し、そして上げていくためのコーチングが求められている。コーチング研修を受けたが、その実践は難しい。声のかけ方ひとつで相手の気持ちも変わってしまう。そういう心の機微なところにはとんと疎いのだが、テクニックとして理解しようとするとできなくもない。これが正しいのかはわからないが、手探りで進めていくしかないな。

そんな1on1ミーティングだが、本の貸主である部下のテーマは「犬」だった。コロナ禍で生まれて初めて犬を飼い始め、部下自身も家族も変わっていったという興味深い話だった。

他にもコロナがきっかけで犬を飼い始めた人が周りにいる。コロナにより、ペット市場はちょっとした特需になっていたのかもしれない。

私は犬を飼ったことがない。動物が嫌いではないが、犬と生活を共にしたことはない。今、住んでいるマンションはペット禁止だ。犬との生活は上手くイメージできない。毎日散歩し、エサを与え、病気になれば動物病院へ連れていく。

部下の犬をテーマにした話で印象的だったのは、犬によって価値観が変わり、救われ、そしていくつになっても新たな出会いが訪れることに気づかされたという話だった。

本作でも、男、泥棒、夫婦、娼婦、老人、そして少年が犬と出会い、時に救われ、気づき、そして、失う。

どうして犬と暮らす喜びを忘れていたのだろう。犬が与えてくれる愛や喜びを、どうして思い出さなかったのだろう。(p.123)

犬が与えてくれる愛や喜び。ふむ、私も感じてみたいものだ。

本作は失望からの再起といった単純な話ではない。ままならない人生を犬とともに歩み、そして、登場人物の多くは救われない。

それでも、犬と過ごした時間の尊さや幸せを感じている。制御不能な自然災害があり、逃れようもない人間関係もある。愛情と憎悪、希望と絶望、過去と未来、そして生と死。

多くの小説家が幾度となく取り扱ってきた普遍的なテーマを一頭の犬である「多聞(たもん)」の旅を通じて描いている。物語には余白が多く、その先にある多聞と出会った人たちの交流を思い描かずにはいられない。

息子たちが旅立ち、私が老衰したら犬を飼ってみようか。妻は賛同してくれるかな。