40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

ルワンダ中央銀行総裁日記

※2016年2月9日のYahoo!ブログを再掲

 

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本書の初版は1972年。ということで私が生まれる前に書かれた本であり、ずいぶん昔のことだ。しかし、タイトルがなかなかにインパクトが強い。

アフリカ中央の小国ルワンダ中央銀行総裁として勤めた6年間の記録である。

ということで、著者の服部正也(1918-1999)さんが、日本人としてルワンダ中央銀行総裁として働いた経験を本人が描いている。ウィキペディアによると、服部さんは『日本の銀行家、実業家。日本人初の世界銀行副総裁』とのこと。同じ年生まれは、田中角栄ファインマン中曽根康弘ネルソン・マンデラ福井謙一いわさきちひろ

さて、ルワンダのこと。クライシス・キャラバン―紛争地における人道援助の真実(感想文14-13)でも出てきたが、ツチ族フツ族の血みどろの抗争がある。ルワンダ大虐殺と呼ばれるが、服部さんが中銀総裁として働いた1965~1971年はわりと平和だった。

ルワンダそれ自体外国にとってなに一つ魅力はなく、ただ各国の利己的な国際政治上の理由から関心をもたれ、援助されているのである。もしコンゴの内乱が鎮定されて統一が実現し、東のおさえの必要がなくなれば、また、今後米国の国際政策に変更があれば、ルワンダに対する各国の関心は薄れ、援助はたちまち打ち切られることになるだろう。

とあるようにルワンダはこの当時は平和だったが、'''隣国のコンゴの内乱に対応するためにルワンダは生かされている状況'''だった。既にこの当時から援助は、国際政治上の理由でなされており、経済的に発展させるために行われていたのではない。

そして、本書で写真が掲載されているが、とにかく1961年のルワンダは全くの別世界。小さく貧しく多くの問題を抱える国の経済を再建するという、途方もない難事業を、一人の日本人が実行する。どこかで『異世界に飛ばされて活躍するラノベのような設定』と書かれていたのも頷ける。しかし、ラノベと違って萌え要素はない。でも、マンガ化したらさぞ面白いことだろう。

本書では、服部さんの現地での苦労やカルチャーショックやタフな交渉が描かれているが、これは是非、実際に読んで頂きたい。この感想文では服部さんの個人の考えや信念を抜き出しておこう。

私は、過去は将来の準備以外に意味はなく、過去を語るようになったら、それは将来への意欲を失った時だ、と考えている。

こうやってすっきり言い切ってくれる。過去は将来の準備以外に意味はない。大事な言葉だ。

私は甘えと、甘やかすことほど世界を毒するものはないと思っている。しかし最近の傾向は人間的という美名で甘えと甘やかしが横行し、人間生活に必要な規律と義務が軽視され、そのため社会が乱れている。

これが1972年のことをなのだから、今の日本を見れば服部さんはさらに嘆くのだろうか。息子たちをもう少し厳しく育てようか。

離婚率という、いわば不幸指数の高いことで婦人解放度を測定する評論家のいる国からきている私は、ストライキ数で民主主義の高さを計る彼らを笑うことはできない

彼らとはルワンダから海外の大学に留学しているエリートたちのこと。こういう切れ味の鋭い皮肉が既に70年代に語られていることに驚きだ。

自信を失ったら政治家はおしまいである。予算編成権を失った大蔵大臣は無力である。

勝手ながら、人事権のない上司は無力である、というのも付け加えたい。

私は戦に勝つのは兵の強さであり、戦に負けるのは将の弱さであると固く信じている。(中略)どんなに役人が非効率でも、どんなに外国人が無能でも、国民に働きさえあれば必ず発展できると信じ、その前提でルワンダ人農民とルワンダ人商人の自発的努力を動員することを中心に経済再建計画をたて、これを実行したのである。(中略)途上国の発展を阻む最大の障害は人の問題であるが、その発展の最大の要素もまた人なのである。

服部さんが考えたルワンダの経済再建計画の基本方針は、

ルワンダでは工業化による経済発展などという、途上国の多くでとられている性急な政策をとる必要はなく、まず農業中心で農民の繁栄をはかればよいのである。

であった。国民の幸福が大事であり、現場を見て、現地の人と交流し、多くの意見を聞いて、基本方針を定めた。様々な困難がありながらも、ルワンダの発展の道筋をつけていく働きぶりに感嘆する。

40年以上も前にこうした大事業を成し遂げた日本人がいることに驚き、そして本書を読めばこれが本当に40年以上も前に書かれた本なのかというほどの読みやすさにもう一度驚くことだろう。

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(感想文の感想など)

改めてルワンダの今を整理しておきたい。

面積は2.63万平方キロメートルで四国(1.88)よりも大きく九州(3.56)よりも小さい。意外と小国なんだな。

外務省HPによると、

www.mofa.go.jp

カガメ大統領は汚職対策に力を入れており、汚職の少なさは、治安の良さとともに、良好なビジネス環境を提供している。なお、ルワンダは女性が国会議員に占める割合が61.3%で世界一(2021年1月現在、IPU)。下院議長の要職を女性が占め、女性閣僚の割合は約52%(2021年3月現在)と、女性の社会進出が進んでいる。

とのこと。1994年4~7月のルワンダ大虐殺で約100万人が殺された地獄絵図の状況からは、ずいぶん良くなったようだ。外務省の危険情報でも、危険度はレベル1「十分注意してください」となっており、2022年6月現在、ルワンダは比較的安全な国と言える。

知らんかった。まだ危険な国だとばかり思っていた。アップデートしておこう。