40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文22-21:数学者たちの楽園―「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

代替医療のトリック(感想文10-49)と同じ、サイモン・シンによる著作。テーマは「ザ・シンプソンズ」だ。

実は、『ザ・シンプソンズ』の脚本家チームには、数を深く愛する者が何人もいて、彼らの究極の望みは、視聴者の無意識下の頭脳に、数学というごちそうをポトリポトリと滴らせることなのだ。(p.26)

脚本家チームには、アメリカの一流大学で数学や物理学やコンピュータサイエンスの分野できちんとした教育課程を経て、博士号を取得した人材も含まれている。

私はザ・シンプソンズのアニメをちゃんと見たことがない。黄色いキャラクターたちは、そのカラーのためであろうが、日本ではCCレモンのキャンペーンキャラクターとして採用されたことを記憶している。

本書を読むと、ザ・シンプソンズに数学ネタがふんだんに盛り込まれていることがわかる。エルデシュ数セイバーメトリクス感想文16-28:マネー・ボール 参照)、ジェルマン素数、パンケーキ問題、ベルフェゴール素数などなど。詳細は本書をお読みになると良いだろう。

数学の小ネタだけでなく、その背景まで丁寧に描かれていて、楽しめる人には楽しめる。だが、私のようにザ・シンプソンズを見たことがない人にはちょっとハマり切れないのは否めない。

われわれの社会は、偉大な音楽家や小説家に対しては称賛を惜しまないし、それはそれで正しいことではある。だが、地味な数学者たちは、世間の話題にはまずのぼらない。数学が、文化の一部とみなされていないのは明らかだ。<中略>脚本家たちは、もう4半世紀にわたり、プライムタイムのテレビシリーズに複雑な数学のアイディアをもぐり込ませてきたのである。<中略>この人たちはたしかに、これまで築き上げてきた数学的遺産を誇りに思っているのだと確信できるようになった。しかしそれと同時に、数学を続けられなかったことで、一抹の悲しみを抱えている人たちがいることもわかった。(p.419-420)

数学の面白さは伝わりにくい。どころか逆に恐怖を感じる人もいるだろう。ザ・シンプソンズに数学のアイディアをもぐり込ませることが、どういった影響をもたらしたのかは定かではない。脚本家チームに数学愛好家が集った結果の事態なのだが、その数学愛好家たちはアカデミアの世界で数学を続けることはできなかった。

数学はとてつもなく魅力的なコンテンツであり、世界の在り様その物ともいえる。私たちの世界は、数学をベースにした計算や、数学で記述できる物理現象なしでは、記述し、認識することはできない。

あんなおちゃらけた感じのアニメに、多くの数学者たちが関わっているとは知らなかった。そのギャップに驚くとともに、よくもまあそんなマニアックなテーマで一冊書いたなとサイモン・シンさんの力量と着眼点に敬意を表したい。