話題となった中国のSF小説。SF小説を読むのはいつ以来だろう。調べてみると2010年に銀河ヒッチハイク・ガイド(感想文10-63)とその続編である宇宙の果てのレストラン(感想文10-75)ぶりになりそう。
10年以上もSF小説を読んでいなかったのは、SFというジャンルが廃れて久しく、話題になる本は出てなかったからだ。他に近似する作品で思い出すのは、2011年にPSP版が発売されたSTEINS;GATE(略してシュタゲ)くらいだろうか。シュタゲも10年以上前の作品だったか。懐かしいな。
さて本書。SF小説で話題になったのはかなり久しぶりだろう。しかも中国人作家なのだ。監修者解説から引用しよう。
(著者の)劉慈欣は1963年生まれ。エンジニアが本職で、兼業作家として小説を執筆している。発電所のコンピューター管理を担当していることもあってか、彼の作品にはしばしば科学者と技術者が登場する。壮大なスケールと深い経験に裏打ちされた確かな科学知識、古今東西に及ぶ文化や歴史への造詣の深さなど、従来は中国で「子供向けの読み物」とされていたSFに新たな地位を確立させた立役者でもある。(p.445)
本作は科学や技術への著者の造詣の深さだけでなく、そのスケールの大きさももの凄い。深く広く濃く重い。読み応えがある。そんなにすらすらと読み進められるものでない。
印象に残った一節があるので引用しておこう。
自分がノーマルだと思っている行為や、正義だと思っている仕組みの中にも、邪悪なものが存在するのだろうか?さらなる熟慮の末に至ったひとつの推論は、ぞっとするような深い恐怖の底に彼女を突き落とした。もしかすると、人類と悪との関係は、大海原とその上に浮かぶ氷山の関係かもしれない。海も氷山も、同じ物質でできている。<中略>じっさいには、氷山は広大な海の一部なのではないか…。(p.29)
悪は人類の一部ではないか。シニカルな結論だが、思わず考えさせられた。しかも中国人による小説の一節なのだ。どうしてもコンテクストを深読みしてしまう。
本書はマーク・ザッカーバーグやオバマ元大統領など著名人が推薦したことでもよく知られている。とはいえ、安易に手を出すことはお勧めしない。Netflixでドラマ化するらしいから映像で見る方が楽かもよ。映像化は大変そうだけれども。