40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文23-01:みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

「三連休にみずほ銀行のATMが使えないのでご迷惑をおかけしてます」みたいなCMを見た方も多いだろう。全国のATMをストップさせて、システムを統合させたのだ。そしてそのシステムは尋常ではない規模だ。まさにタイトルにあるように史上最大のITプロジェクトである。

みずほフィナンシャルグループ(FG)が長年にわたって進めてきた、みずほ銀行における「勘定系システム」の刷新と統合のプロジェクトが、2019年7月に完了した。本書の目的はその情報システム開発プロジェクトの全貌を解き明かすことにある。(p.2)

今から3年前の2019年にシステムが刷新された。プロジェクトは難航しいつまで経っても完成しないので「IT業界のサグラダ・ファミリア」と揶揄されたシステム統合の全貌が本書に記されている。

さて、プロジェクトの大きさを数字で示しておこう。

みずほFGは35万人月という銀行のシステム開発プロジェクトとしては前代未聞の労力と、4千億円台半ばという巨費を投じていた。(p.4)

19年!35万人月!4千億円台半ば!「スパコン富岳」後の日本(感想文21-26)では「富岳」の開発費は1300億円となってたので、単純計算で富岳レベルのスーパーコンピュータを3セット以上作れることになる。

なぜこんなにも開発規模は膨らんだのか。それはMINORIが完全な新規開発だったからだ。旧みずほ銀行の旧勘定系システムである「STEPS」や旧みずほコーポレート銀行の「C-base」、みずほ信託銀行の「BEST」からはプログラムを一切引き離さず、一から作り直している。<中略>旧システムの要件や現状の業務フローを踏襲する「AS IS(アズイズ)」の要件定義を全面的に禁じた。(p.59)

バブル経済が崩壊し、金融ビッグバン(≒規制緩和)があり、銀行の提携・合併が進んだ。みずほ銀行は第一勧銀、富士銀行、日本興業、安田信託が一つになった。それぞれがシステムを持っていてそれを一つにするのではなく、一から作り直したのが「MINORI」だ。

多くの人員と労力と資金をつぎ込んでもなお難航した巨大プロジェクトは実際に関わった人にとっては悪夢だったかもしれない。だがその間に世の中はどんどん変わっていく。

特定職のメンバーにとって、MINORIへの移行に携わったことはキャリアの大きな転機になった。<中略>FinTechが普及しつつある今、みずほFGにとって店舗の役割の再定義は経営の最重要課題の一つだった。(p.92)

やれFinTechだ、DXだ、情報銀行だと、潮流が激しく変化する中で、MINORIへの移行がチャンスとなり、新たなキャリアパスを拓いた人もいるのだ。

みずほFGは、MINORIの強みをさらに生かす仕掛けを2020年度にも完成させる。新たに導入するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)ゲートウェイだ。APIとは他のシステムやソフトウェアにデータや機能を提供する仕組みのことである。(p.102)

APIによって他のシステムとの連携がスピーディ且つ簡便になる。これが具体的にどのようにビジネスで有効なのかは説明できないのだけれど。本書ではMINORI稼働までの苦悩や反省だけでなく明るい希望を描いている

しかしだ。その後もシステム障害をたびたび起こし、金融庁がガチギレして業務改善命令を出し、みずほの社長と頭取のクビが飛んだ。システムが統合されたその後の話は全然ハッピーでなく希望に満ち溢れてもいない。MINORIは稼働したが未だ完成してないのだ。

みずほFGの経営トップは勘定系システムの刷新を現場任せにして、情報システムのことを理解せず、必要な資金や人員を投入する決断ができなかった。情報システムの開発に際して業務部門が情報システム部門に全面的に協力したり、関係各所の利害を調整したりできるリーダーシップを発揮することも怠った。経営陣のIT軽視、IT理解不足が、大規模システム障害の根本的な原因だった。(p.7)

NHKの解説記事「みずほ 相次ぐシステム障害の"真因"」が大変参考になる。この記事で指摘されているように「システムにかかわるリスクと専門性の軽視」と「IT現場の実態の軽視」が問題視されている。システムは刷新されたが経営陣のマインドセットは変わっていなかったのだ。

www.nhk.or.jp

『銀行業は、突き詰めればリスク管理業である。融資の審査に代表されるように、リスクを一定の範囲内に抑えられるかどうかが、経営の成否を左右する。(p.172)

リスクを正しく管理できない銀行に未来はない。経営陣のIT軽視、IT理解不足が、大規模システム障害を起こし、大変な苦労をしてようやくMINORIを稼働させたが、保守と運用に必要な人員を減らし経費をケチり、再びシステム障害を引き起こした。

本書を読んでみずほ銀行をメインバンクにしようかなと考えたのだが、ダメだな。システム開発に19年かかったが、経営陣のマインドセットと「積極的に声を上げることでかえって責任問題となるよりも、自分の持ち場でやれることはやっていた、といえる行動をとる方が、合理的な選択になるという企業風土」が変わるのに何年かかるだろうか。そして何より顧客の信用を取り戻すのはもっと時間がかかる。本当の苦悩はこれからだ。