40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文23-06:南極の氷に何が起きているか

人生で成し遂げたいことの1つに全大陸制覇がある。制覇っていうと凄いことに思えるが、なんてことはない、すべての大陸に上陸したいのだ。

これまでユーラシア大陸、アフリカ大陸、アメリカ大陸、南米大陸には上陸している。残すところオーストラリア大陸南極大陸だ。もっとも難易度が高いのは南極大陸であるのは論を待たないだろう。

しかし実のところ南極大陸のことをほとんど知らない。もちろん寒くて、ペンギンが棲息していて、昭和基地があるくらいは知っている。だが南極についての本をきちんと読んだことがなかった。昨今の気候変動(いや気候危機か)により南極の氷が融けているという話は聞いたことがあったが、それがどのくらいの規模なのかは皆目見当がつかない。

南極氷床の面積は日本の約40倍、地球最大の氷のかたまりである。氷の厚さは平均2000メートルで、場所によっては4000メートルを超える。もし全てが融けて海に流れ込めば、地球の「海水準」(陸地に対する海水面の高さ)は約60メートル上昇する。(p.ⅲ)

南極氷床は日本の約40倍。同じ大陸では南米大陸南極大陸オーストラリア大陸なのだ。全ての氷が融けると海水面は60メールも上昇する。地球の地図が一変する。

最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。その背景には、気候変動に影響を受けた海の変化がある。(p.ⅳ)

まさに南極のサイエンス。気候変動がどのように南極の氷の現象に影響を与えているのか、本書はそのメカニズムに迫っていく。

日本で消費される生活水は年間13ギガトン、国内最大の流量を持つ信濃川の年間流出量が15ギガトン。日本全土の降水量が年間640ギガトンである。対して、南極氷床が抱える氷は2450万ギガトンで、まったくの桁違いといえる。(p.15)

日本で消費される生活水は13ギガトン。ギガとは10の9乗で10億を表す。13ギガトンとは130億トンのこと。ちなみに琵琶湖の水の量はおよそ275億トン(27.5ギガトン)らしい。対する南極の氷は2450万ギガトン、つまり2京4500兆トンになる。あかん、全く想像できない。

2か月違いで発表されたふたつの論文による報告は、南極氷床の変動を理解する上で大きなブレイクスルーであった。降雪によって涵養された氷が、カービングと棚氷の底面溶融で半分ずつ消耗する。<中略>21世紀に入ってから、南極氷床の変動に関する研究は急加速しているのだ。(p.30)

解明されてからまだ10年も経っていない。それだけ南極のサイエンスはスリリングに展開している。どういうメカニズムで融けているのだろうか。

21世紀に入ってからの平均値として、氷床は毎年約100ギガトンの割合で氷を失っている。<中略>変化の主な原因は、一部の氷河が加速して、海に流出する氷が増えたからである。<中略>棚氷が薄くなって接地線が後退し、内陸の氷を押しとどめる力が弱くなったのだ。(p.95)

ざっくりとしたメカニズムは、海洋の温暖化と循環の変化→底面融解が増加→棚氷が薄くなる→海と氷の接地線が後退→氷河が加速→氷の喪失である。本書を読めばなるほどなとわかるけれど、規模が巨大すぎてなかなか普通には理解しがたい。暖かくなったから氷が融けたのだが、ことはそう単純ではない。カニズムを解明しなければ、氷の溶融を止める正しい方法は見つからない。

氷床は毎年約100ギガトンを失っている。琵琶湖が27.5ギガトンなので4杯分くらいだ。そんなもの凄い量が毎年融けている。じゃあ、がんがん海水面が上がっているかと言うとそうではない。360ギガトン=海水準相当1ミリメートルなので、100ギガトン毎年融けても短期的には影響はない。しかしだ、

雪氷が融解してアルベドが下がると、エネルギーの吸収が増えて、さらに雪氷の融解が進む。いわゆる「正のフィードバック」が働くことになる。(p.125)

光エネルギーの反射率が高い氷床(白いから光を跳ね返す)の表面が減っていくと、受け取るエネルギーが増え、温暖化が増幅される。氷が融けると地球が暑くなっていくメカニズムが起きてしまう。

温室効果ガスの排出量に左右される将来の気候の不確定性は、私たちに与えられた選択幅と考えることもできる。<中略>地球システムに対する科学的理解の向上と、人類活動に対する適切な将来構想が、将来の地球環境をコントロールする両輪となる。研究者のさらなる努力と、社会の行動が求められているのだ。(p.171)

大変複雑な地球環境のシステムを科学的に解明し、適切なコントロール下に置くことが求めれる。少し前なら不遜だとする批判もあっただろうが、いよいよ人類の生存が脅かされるに至って、悠長なことは言えなくなってきている。

一方で南極のオゾン層、2066年に回復と予測 国連(2023年1月11日)というニュースがあり、オゾン層を破壊する化学物質の使用禁止が効果を発揮したのだ。

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地球が巨大すぎて一人一人の行動が環境改善につながる実感はないだろう。しかし、小さな取り組みが時間をかけて実を結ぶ事例は私たちに勇気と希望を与えてくれる。できるはずだと。