
かつて、たいていはどの駅にも近くに1軒はあった本屋がなくなっている。今、私は都内に住んでいて周辺地域の人口は多いはずだが、最寄り駅のそばにあった本屋はずいぶん前に閉店してしまった。
私が利用する本屋は池袋の三省堂書店かジュンク堂である。どちらも大きく、品ぞろえが豊富だ。ふらりと立ち寄ると、何かしら新たな発見があり、手軽に刺激を受けることができる。
本書で掘り下げたいのは「普通の書店」の商売はどのように成立し、変わり、また、どんな背景から競争に敗れ消えてきたのか、である。(11-12)
町の本屋が次々とつぶれている現象は多くの人が実感しているだろう。その理由が、出店が相次ぐコンビニが本を扱い出したとか、ネット販売が増えたとか、電子書籍が増えたとか、図書館の利便性が高まったとか、YouTubeなどで本を読む時間が減ったとか、様々な言説が飛び交っている。実際、なぜ本屋はつぶれたのだろうか。
「出版市場が縮小しはじめる前から町の本屋は減りはじめている」
「『委託取引が基本』と言われるが、実態としては『返品条件付販売』であり、書店の資金繰りが悪化しやすい取引条件になっている」
「『再販制度だから安価に本の全国流通ができる』と『再販制が町の中小書店を守る』は両立不可能である。出版社の都合で運用される限り、再販契約は書店保護策としては機能しない」
「成立当初の再販契約書の基準からいえば、もはやいまは本も『定価販売』ではない」(311)
先ほど示したようなメディアや出版業界で常套句になってきたことは誤りで、そもそも本を売るビジネス単体で、小規模な書店の成立は極めて困難だ。その根本は価格決定の仕組みとキャッシュフローにある。
紙の出版ビジネスでは、戦後長く本の価格の決定権は出版社が、書店の仕入の主導権および入出金の決済時期(キャッシュフロー)は大手取次が握ってきた。<中略>日本の出版産業は、その多くが小資本である書店と出版社を、ごく少数の大資本である取次が媒介する「砂時計」の構造になっている。つまり大手取次は中小の書店や出版社に対して優越的な地位にあった。(315)
本屋は本を売るのが仕事だが、自ら価格を決めることができない。そして返品条件付販売なので、取次から本を仕入れれば本屋が取次に代金を支払い、売れ残って返却したらその時点で返金される。このキャッシュフローのタイムラグが本屋ビジネスをより困難にしている。
出版業界は流通業者や小売が単品管理するためのコスト、手間がかかり、精度を高くするために実現すべき機能は商品カテゴリーや個別の店ごとに事細かい。そのわりに本は安く、利幅は薄く、投資回収の見込みが立ちづらい。地獄のような業界だ。(196)
山ほど種類のある本を単品管理し、発注から配送を一気通貫で成立させるためには非常にコストがかかるため至難の業だ。かつて町の本屋に欲しい本を注文しても、なかなか届かないので、大型書店で購入する事例がよくあった。配送コストを考慮すれば、町の小さい本屋に配送するよりも、大型書店にたくさん配送する方が取次にとっては合理的なのだ。
Amazonは、たんなる「ネット書店」ではない。在庫を抱え、自社で物流機能を持つことで客注を強化すること、本のカタログ情報を充実させて予約期間を長く取って事前注文を重視し、発売日に届けることは、TRCなどが追い求めてきたものだった。(305)
そういったコストを引き受け、大規模ビジネスの展開に成功したのがAmazonだ。当初、ほとんどの人がAmazonは成功しないと予想していた。出版流通上の問題だと語られてきたことを自力で解決し、書店が近くにない人たちにも発売日に本を入手する機会を提供した。
消費者はAmazonの利便性を大いに享受している一方で、 アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した(24-30)にあるように、Amazon成功と消費者の満足の裏で多くの低賃金労働者が懊悩しているのかもしれないが、それはまた別の話。
「雑誌と書籍の一体型流通」「取次寡占」「再販契約」のなかで1990年代まで出版市場は成長してきたが、この3つがいまや変革の阻害要因だ。中小書店の生きのこりには「書籍単体でも儲かる」「仕入と資金繰りでの主導権を握る」「客単価の設定も自ら行う」が必要だからだ。(321)
これからの中小書店ビジネスはどうなるか。その姿ははっきりとはしない。しかし全く希望がないというわけではないと信じている。町に書店が戻ってくる日がいつか来るだろうか。