※2017年10月16日のYahoo!ブログを再掲
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何度か書いたように思うけれど、私の初めての海外渡航先はケニアだ。だから私は、ケニアに、アフリカに強い思い入れがある。
日本の企業がアフリカで蚊帳を販売し、成功しているという話は聞いたことがあった。しかし、それは日本に古くからあるローテクの蚊帳をアフリカで販売したら、それなりに売れた程度の話としてしか認識していなかった。そうではないのだ。そんなちゃちな話ではないのだ。
オリセットRネットとは、日本の化学メーカーが世に送り出した、高性能蚊帳である。遠くアフリカをはじめとする海外の途上国で、マラリア防除などのために、年間にして数千万張りの規模で使われている。(p.1)
化学メーカーとは住友化学のことであり、販売しているのは、「高性能」蚊帳であり、その数年間数千万張りの規模になる。
研究開発し、WHOに認めさせ、現地に工場を作り、現地で営業し、販売する。多くの人間の思い、苦労、試行錯誤、忍耐、努力、執念、あるいはそれを超える何か、そういったもの全てが一つの蚊帳という商品に織り込まれている。
マラリアという大きな課題があり、それを多くの人は認識しているが、それを解消することはできなかった。単なる社会貢献ではなく、単なるアフリカでのビジネスでもない。社会貢献しながら、ビジネスとしても成立する、それを達成したのが、このオリセットなのだ。
蚊帳が「物理的な破れにくさ」と「長く持続する殺虫剤の効果」。(中略)「できるだけ大きな網目」。オリセットのもつ明らかな優位性は、テストと評価を延々と繰り返すことで、確立されていったのだ。(p.41)
オリセットには既存の蚊帳にはない優位性がある。しかし、価格が高いせいもあり、既に販売されている蚊帳の牙城を崩すのは難しい。良い物だから売れる、というわけではない。
挑戦すれば、毎日、新たな壁が立ちはだかる。継続して壁を乗り越えていくDNAが組織に組み込まれない限り、アフリカのようなアウェイの地で、日本企業が新しい製品を市場に投入し、シェアを築くことは難しい。(p.386)
本書は、オリセットが世に出て、アフリカで受け入れられるまでの軌跡を描いている。ビジネスは簡単ではない。日本から遠いアフリカでのビジネスとなると、その難易度は格段に高くなる。
しかし、こういったチャレンジングな仕事は数多く残されている。放っておけない、見過ごせない、看過できない、何か心に引っかかる事象、それが人生をかけるに値する仕事になるかもしれない。
日本だけがこういった問題に先進的に取り組んでいるというわけではないだろう。それでも日本の企業が、日本人が、この事業に成功したという事実を嬉しく思う。先進国としての日本が成すべきことであり、責務であるとも思う。
本書で勇気をもらった。私自身の取り組みに反映できたら良いな。
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(感想文の感想など)
後日、住友化学の方とお話する機会を持つことができた。
取り組みとしては大変素晴らしいもので、またオリセットネットを通じて住友化学という会社に興味を持ち、新規採用の門を叩く学生が少なくないとのことだった。
他方でビジネスとしては「結果的に」うまくいってはいない。WHOが殺虫剤を練り込んだ蚊帳を買い取るのだが、より安価な類似品が多数登場し、市場を奪われてしまったのだ。
蚊帳がマラリア予防に最も効果的であることは実証され、オリセットネットが多くの命を救ったのは間違いのないことだ。しかし、それによって住友化学は金銭で十分な対価を得たとは言い難い。
だが、こういった取り組みが次世代の若者たちへの刺激となり、新たな人類の叡智を生み出すであろうことを期待したい。ビジネスはかくも難しく、厳しい。しかしビジネスというコンセプトを拡張すれば、金銭ではない実りは多く得られたのであろうと、信じたい。