
会社は「本」で強くなる(26-28)で紹介されていて、手に取ってみた。読んでみると大変面白い。
野村総合研究所の推計によると、2022年度に民間で発行されたポイントの総額は1兆2342億円。ポイントの発行には、物やサービスの購買などが伴う。つまり、ポイントの発行額をベースにすると、少なくとも110兆円もの巨大な消費がひも付いているのだ。(3)
110兆円もの巨大な「ポイント経済圏」を巡るビジネスの攻防が描かれている。私はネットで買い物しない(ネットでの買い物は妻が一元管理)し、Vポイントや楽天ポイントなどの共通ポイントをほとんど利用していない。ポイントを利用しているのは、近くのスーパーと家電量販店のそれぞれの独自ポイントくらいだろうか。現金中心の私の消費行動は、今のポイント経済圏では補足しにくいだろう。
本書はポイント経済圏を巡る五大陣営の攻防の内幕を描いたものだ。(5)
現在の五大陣営とは、楽天ポイント(楽天)、Ponta(三菱)、dポイント(ドコモ)、Vポイント(三井住友)、PayPay(ソフトバンク)である。そして日本のポイント経済圏を語る上での最重要人物は、笠原和彦氏である。
笠原氏はNECの敏腕セールスマンだったが、1989年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC:レンタル店「TSUTAYA」や「蔦屋書店」などのプラットフォーム事業を手掛ける企業)に移籍。CCCで共通ポイントプロジェクトを立ち上げ、まさに「Tポイント」の生みの親となる。
「1業種1社」というTポイントの成長の原動力となった加盟ルールである。(60)
ということで、例えば、石油元売りでは「新日石」、コンビニでは「ファミリーマート」、飲食業であれば「すかいらーく」といった面々で構成され、競合他社の加盟を認めない「鉄の掟」がTポイントを大きく成長させることとなった。そのルールは笠原のアイディアが活かされている。
Tポイントは従来の流通のマーケティングの常識を覆した。その原動力となったのが、データの存在である。共通ポイントによる新たなマーケティング手法は、会員の増加や加盟店網の広がり、そいて、それらから積み上がるデータをさらに活用することで、進化が一層進むことになる。データを土台とするポイント経済圏の礎が着々とつくられていったのだ。(77)
ポイントの共通化が新たなマーケティング手法を生み出す。会員の増加に伴いデータ蓄積されると分析に有利になる。「1業種1社」ルールにより、ポイント経済圏もっと言えば他業種同盟圏、もっと言えばポイント・ブロック経済圏が強化される。こうしてTポイントのヘゲモニーが完成し、後発のポイント経済圏が太刀打ちできないかに見えるのだが、そうならないのが面白いところ。事実、今となっては、TポイントはVポイントへと名称を変更し、影響力は相対的に小さくなっている。
なぜTポイントの牙城が崩れたのか。Tポイントの生みの親である笠原氏は、CCCで冷遇され、そして競合となる楽天へと移籍する。
4年後、笠原は楽天に移籍し、自ら生み出したTポイントを倒す戦いに身を投じることになる。運命の歯車は回り始めていたのだ。(124)
笠原はTポイントを生み出し、そして楽天ポイントにより打ち倒していく。つまりは、「1業種1社」ルールをどう打ち破ったのか。
ダブル付与が画期的だったのは、単にポイントの大盤振る舞いによる集客力の向上だけではない。自社ポイントの廃止を迫るTポイント流の「囲い込み」に対し、笠原が構想した業種や地域にとらわれない「包み込み」戦略を体現していたことだ。共通ポイント事業者と加盟店の間で、排他的ではなく、オープンな関係を築くという思想が底流にあった。(146)
自社ポイントと楽天ポイントのダブルポイント付与が、強固なTポイントの牙城を切り崩すクリティカルな一撃となった。Tポイントの経済圏が強くなればなるほど、加盟店の自由度が下がり、離反を招く。
もちろん楽天は、EC事業や金融事業というCCCやTポイント経済圏にはない強みがあった。後にTポイントは三井住友と組むことでVポイントとなったとはいえ、うまく金融事業を引き入れることには成功したと言える。
ビジネスを動かしているのは結局のところ、人であり、人の感情なのだ。<中略>ポイント経済圏を巡る覇権争いは、人が織り成すダイナミックな叙事詩と言っても過言ではない。(258)
本書では実名で多くの方が登場する。本書で初めて知った方もいれば、楽天の三木谷氏やソフトバンクの孫氏など時代の寵児と呼べる有名人も多数登場する。
ポイント経済圏では消費者でありポイントの受益者でもある私たちからは見えない、ビジネスの世界。多くのビジネスマンが関わり、組織として意思決定し、 社内政治の科学(26-32)にあるように正式なルートではない方法で無数の調整や交渉があったことだろう。ポイントの元締めと加盟店だけでなく、個人情報やデータの管理や解析などITベンダーも深く関わり、多くの労働者が苦労し築き上げた経済圏で群雄割拠が日々起こっている。
働くこと、チャレンジすること、既存のルールを打ち破ることなど、様々な面白さや難しさが存分の詰まった一冊。本当に面白かった。





