40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文24-06:お客さん物語

これもスペイン出張に持って行った本。なぜこの本を購入したのかあまり覚えていないが、パパ友がスペインバルの店長で、飲食業での仕事って大変だけれど、どんな感じなのかなとぼんやりと頭の片隅で思っていたのが遠縁だろうか。

著者は稲田俊輔さん。ネットではイナダシュンスケさんとしての方が有名だろうか。実のところ著者名を把握せずに購入し、読み進めているうちに、ああ、あのイナダシュンスケさんだったのかと後で認識したのだった。

稲田さんは京大を出て、飲料メーカーを経て、南インド料理を開店するというなかなか珍しいご経歴。京大らしさはある。お店は永田町付近にあるらしい。行ってみたい。ただし、南インド料理が何かよく分かってないのだけれど。食べればわかるのかしら。

様々な飲食店における様々な出来事を巡る、僕の心象風景であることは確かです。だからこれは、研究書でもルポルタージュでもなく「物語」なのです。(4)

本書はそのタイトルのとおり稲田さんが描く物語である。当たり前と言えば当たり前だけれど、飲食店はお客さんがいて初めて成立する。だからこそお客さんとの無数の物語が日々生まれるのだ。

こうした日本人の「どこの国の料理でも食べてやろう」という貪欲さは、一体どこから来るものなのでしょう。しかもその貪欲さは、「とはいってもそれは日本人好みにアレンジされていないと受け付けない」というある種の狭量さとも表裏一体です。(48)

日本人は確かに何でも食べるし、そしてすぐにアレンジしたがる。貪欲さの裏に狭量さがあるという指摘にはっとさせられると同時に、本場さながらの本格料理を日本でビジネスにすることの難しさにも気づかされる。

欧米で生まれた「レストラン」というシステムそのものが、お酒で利益を出すビジネスモデルなのです。<中略>現代は飲酒人口も消費量も明らかな減少傾向にあり、この構造が通用しなくなりつつある、いわば過渡期です。(76)

飲食業界にとってはなかなか難しい課題だと思う。アサヒビールの「スマドリ」のように、「飲み方の多様性を尊重」と言えば耳障りはいいが、実を言えばもはやアルコール飲料が売れる時代ではなくなりつつある。アルコールは少量でも有害であるとされ、タバコと同じように嗜む人は少数派になりつつある。

他方で料理とお酒はマリアージュで共進化し、文化にも深く根付いている。お酒と料理の文化が薄れていくのは寂しくもあるが、それが時代の流れと言われれば受け入れざるを得ない。社会が受容しないのであれば、ビジネスにはならない。

お店はいつだって(様々なビジネス的制約の中で)お客さんになんとか喜んでもらおうと思っています。そしてもちろんお客さんもそれを求めてお店に行きます。本質的には幸せな世界です。しかし同時にその世界は複雑です。私とあなたは違う人。何をもって「喜び」と感じるかは、人それぞれ微妙に異なるのです。(270)

少々お金を多く払っても良いから、美味しいものを気持ちよく食べたい。できればあんまり混んでない店が望ましい。混んでるとオーダーしてから出て来るまで時間かかるので。それが私が感じる幸せだろうか。

早食いで大食いで酒飲みで金払いの良い私は、飲食店にとっては良いお客さんであろうと思いたい。いや、もしかしたら、逆に印象の薄い客なのかもね。物語を生み出してきた感がないな。