40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文24-08:ガウディの伝言

 

昨年11月のスペイン出張で、実物のサグラダ・ファミリアを初めて見ることができた。日本人の説明員に日本語でガイドいただいたので、大変理解が深まった。現在、外尾悦郎さんが主任彫刻家を務めるとのことで、この本にたどり着いた。2006年出版なので20年近く前の本ではある。結果的には、ガイドさんの説明がこの本に依拠していることもわかったのだけれど。

まずはガウディ(1852-1926)とサグラダ・ファミリアについて簡単にまとめておきたい。ガウディは明治天皇と同い年生まれ。1878年(26歳)に富豪グエルがガウディの才能を見出し、そこからパトロンとなりガウディを支援する。

そして1883年(31歳)に当時は無名のガウディがサグラダ・ファミリアの専任建築家に推薦される。ガウディは後半生をサグラダ・ファミリアの建設に全精力を注ぐが、親族や友人の相次ぐ死によりガウディの仕事がストップし、さらにバルセロナ市が財政危機に見舞われ、サグラダ・ファミリアの建設自体も停滞する。1926年(73歳)で交通事故に遭い、生涯独身のまま死亡。

ガウディの死後の1936年に始まったスペイン内戦により、ガウディが残した設計図や模型、ガウディの構想に基づき弟子たちが作成した資料のほとんどが散逸し、サグラダ・ファミリアの建設がさらに困難になる。残されたわずかな資料や、職人による口伝えをベースにサグラダ・ファミリア建造プロジェクトが続行、近年ではIT技術3Dプリンタを活用し、工事が大幅にスピードアップしており、2026年に完成か!?とも言われている。

ガウディ亡き後、サグラダ・ファミリアとその建築に携わる人間たちが辿った運命は苛烈でした。1936年にスペイン市民戦争が起こったとき、サグラダ・ファミリアが受けた被害は物理的なものだけではありません。聖堂の主任司祭だったヒル・パレス神父は殺され、ボカベリーリャの墓は暴かれました。<中略>聖堂が破壊され、ガウディの事務所が焼き討ちされ、模型も粉々にされた上に、建築を進める組織まで離散してしまったわけです。(269)

ということで私は勝手に、ガウディが非常に大規模なサグラダ・ファミリアの建造プロジェクトを立ち上げ、その死後を受け継いだ人が百年くらいかけてちょっとずつ作ってきたのだとばかり勘違いしていた。

不幸や事故やトラブルがあって建設が進まず、ガウディの死後には大事な計画資料を喪失する。っていうかむしろ徹底的に壊滅される。そして資金難に遭うが、多くの方の努力でプロジェクトは再び動き出し、今では世界で最も有名な建造物の一つとなり、スペインで最も観光客を集めるモニュメントになっている。

私は1978年、スペインのバルセロナに渡り、サグラダ・ファミリアに彫刻家として拾われました。25歳の誕生日を迎える前後のことです。それから28年間、すっとこの未完の大聖堂で、仕事を続けて参りました。毎日毎日、石ばかり彫ってきたんです。(9)

外尾さんは1953年生まれということで現在70歳である。ということは45年間も石を彫っているのだ。多くの時間を石に費やす人生について私はうまく想像できない。

しかも当時、サグラダ・ファミリアは世界有数のモニュメントではなく、資金難に苦しみ、プロジェクトの延命に四苦八苦していた頃だ。若い外尾さんが、有名なサグラダ・ファミリアに拝み倒して仲間入りして、腕を認められて存在感を高めたみたいなサクセスストーリーでは決してない。

将来に悩む外尾さんが海外を放浪する中で、偶然か必然かサグラダ・ファミリアに出会い、懸命に石を彫り続けて、少しずつ信頼を勝ち得て、徐々にプロジェクトを任されるようになっていく。

ガウディは本当に人間を幸せにするものをつくろうとしていたと思います。そしてまた、人間がつくり得る最高のものを神に捧げようとしていました。建築や彫刻などの造形だけでなく、光や音も組み合わせた総合芸術。それがガウディの構想していたサグラダ・ファミリアです。(23)

ガウディの天才性の一端は、機能とデザイン(構造)と象徴を常に一つの問題として同時に解決していることにあると思います。(61)

1953年生まれの外尾さんは、1926年に亡くなったガウディと会うことはできないし、またすでに設計図などの資料は失われている。しかし、石を彫る中で、図面が石の中に込められていることがわかるようになっていく。これこそが本書のタイトルにあるガウディの伝言である。

自然の中にある秩序を読み取っていくガウディの手法は、科学者的というより、職人的なものだったと私は思います。自然を言語で捉え、理論や公式を打ち立てていこうとするのが科学者の精神であるとするなら、自然を直観的に捉え、自分の手を信じて、とりあえずものをつくってみようとするのが職人の精神です。その中で、多くの失敗から学んでいく。(105)

科学者ではなく職人としてのガウディ。そして同じ職人同士だからこそ相通じて、自然を通じてガウディの意図を読み解いていく。

最後にガウディの言葉でこの感想文を締めくくりたい。

「人間は何も創造しない。ただ、発見するだけである。新しい作品のために自然の秩序を求める建築家は、神の創造に寄与する。故に独創とは、創造の起源に還ることである」(95)

かっけぇな。