40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文17-53:こころみ学園奇蹟のワイン

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※2017年10月26日のYahoo!ブログを再掲

 

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私はわりとお酒を飲む。ビールも日本酒も焼酎(芋、麦、黒糖)もウィスキーそして、もちろんワインも。会社のワイン会で、同一品種(シャルドネピノ・ノワールカベルネ・ソーヴィニヨン)で飲み比べたことがある。

これまで飲んだワインでどれが美味しかったかと言えば、スイスで飲んだワインだろう。そもそもスイスワインは生産量が少ないにも関わらず、美味しいからとほとんどを自国民が飲み干してしまう。よってほとんど日本には流通していないのだ。現地で飲んだスイスワインは安く、美味しかった。

さて、翻って日本はどうか。はっきり言って、値段相応のワインに出会ったことはない。チリ産よりも高いにも関わらず、味は落ちる。もちろん、最近は美味しくなってきていると聞いているが、コスパは決して良いとは言えない。

本書のタイトルにある「こころみ学園」とは知的障害者施設だ。仕事の関係で、たまたま現地にフィールド調査に同行することになり、事前に勉強しておこうと思い、読んだのが本書だ。

そして、このこころみ学園の存在、その取り組み、そしてその歴史。さらには、現地での体験。これはどれも衝撃的だった。こんな施設が日本に存在すること、これ自体が奇蹟と言える。

知的障害者更生施設といえば、地元にとっては厄介な存在というのが通り相場だが、ここではまったく違う。(中略)知的障害者を地元の生産構造に組み込み、地域住民からなくてはならないといわれるまでの福祉施設に育て上げたのだ。(p.7)

障害者の経済学(感想文12-68)でバリア・フリーからバリア・バリューということを書いたけれど、言うは容易く行うは難し、なのだ。知的障害者でビジネスを立ち上げるとか、途方もなく困難な取り組みでしかない。

知的障害者の教育、更生に半生を捧げ、彼らの経済的、精神的自立のためにぶどうやしいたけ栽培に奮闘し、ワインづくりに挑み、日本でも有数のワイナリーに育て上げた川田昇(p.11)

その困難過ぎる取り組みに人生をかけたのが、川田昇さんだ。私がこころみ学園に行った時点では、すでにお亡くなりになっていた。残念だ。その娘さんが意思を引き継いで運営されている。

読み書きや算数を教え込む以前に、働くこと、それによって自立して生きることを教えなければ、知的障害をもつ子どもたちに未来はない。川田は子どもたちに持論をいい聞かせた。(p.41)

山を切り開き、しいたけを栽培したり、果物を育てる。こう書くと簡単に思えるが、とてつもなく大変な肉体労働の連続だ。夏は暑く、冬は凍えるほど寒い。栃木県足利市の本当に山の中で、自然と対峙し、生活する。

実際に切り拓いた斜面を見たが、とんでもなく急な坂道だ。木を切り倒し、切り株を抜き、大きな石を動かし、畑を作っていく。

楽で”ゆとり”のある教育や仕事をしていると、自分からそれを主体的にやろうという構えができない。逆に、やってもやっても終わらないほど仕事がある状態になると、自分でどうすればいいか考え、工夫するようになる。(p.38)

清潔で最新鋭で近代的な施設ではない。体を酷使し、いつまで経っても終わりの見えない畑仕事を知的障害者が朝から晩まで働く。これを繰り返して、今のこころみ学園が存在するのだ。

川田はいう。仕事というのは、小手先の技術を学ぶことではなく、それを通して生き方を学ぶことだと。自ら懸命になって取り組み、ものごとをおろそかにしないことを身につけることだと。だからこそ、仕事に対して真摯であれと、川田は職員にいい続ける。(p.117)

ここの職員は泊まり込みだ。というより集団生活をしている。ヒアリングしたところ150人いるとのこと。知的障害者しかもわりと重度な方ばかりが150人も生活しているのだ。仕事だけではない。毎日の掃除、洗濯、食事、風呂。そういった日常をきちんと継続するために、職員も園生も一つの家族になって生活している。

このこころみ学園ではワイン用のブドウを生産している。10万房もあるブドウの一つ一つに透明なプラスチックの傘をつけ、ダメになった実を一つ一つ手作業で取り除く。機械化できないが、健常者ならできないような単純作業も知的障害者なら黙々とこなすことができる。こうして質の高いブドウが作られる。

ワインを生産しているのは、隣接するココ・ワイナリーだ。別会社ではあるが、歴史的経緯でそうしただけであって、基本的には同じグループに属している。ワイン工場は近代的で、ワイン造りに優れた外国人が長く携わっている。

知的障害者施設からサミットで振る舞われるワインが生み出されるのはまさに奇蹟としか言いようがない。こんな施設が日本にあることを知り、驚いたと同時に、奮い立つ気持ちにもなった。

一人の人間の情熱が思いが、多くの人を巻き込み、実現する。こういう事例はたくさんある。小さな一歩を踏み出すことが、社会を変える一歩になる。

現地でワインを飲ませていただいた。前情報があったからかもしれないが、驚くほどピュアでありながらきちんとテロワール感じさせるワインだった。当然、購入。本当なら11月の収穫祭に行ってみたい。でも今年は日程的に厳しいかなぁ。

世の中には問題がたくさんある。でも、それは解決することができる。そして、解決するのは、困難な道に無謀な一歩を踏み出す行動なのだ。

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(感想文の感想など)

この本の影響を受けて、この時から新しいプロジェクトを自ら立ち上げ、スタートしたのだった。残念ながら芳しい成果を挙げたというわけではないけれど。

それでも行動して良かったと強く感じている。言うは易く行うは難し、だ。