40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-04:誰も読まなかったコペルニクス

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※2010年1月13日のYahoo!ブログを再掲
 
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本書の感想に入る前に、コペルニクス(1473~1543)について簡単にまとめておこう。
言わずと知れた天動説を覆した人物であるコペルニクスは、ポーランドの司祭であった。(オヤジギャグではありません)子細な天体の観測を通じて、地動説を示したが、それを本にすることには大きなためらいがあった。

地球が動くという説は、聖書と衝突するからだ。プロイセンの若い数学者であるレティクスが強く説得し、何とかコペルニクスの説を出版することに成功した。とはいえ、それはコペルニクスの死後である1543年のこと。

そして出版されたのがかの有名な「天体の回転について」である。

さてさて、この科学史的に燦然と輝く有名な著作は、これまで誰も読まなかったと思われてきた。

その理由の一つが、

アーサー・ケストラー(1905~83)の小説である「夢遊病者たち」の中で「誰にも読まれなかった本」として、烙印が押されたから

らしい。そして、この本では、『ケプラーを英雄視する歴史観を築くために悪役が必要で、コペルニクスガリレオをその役に据えた』とのこと。

なお、アーサー・ケストラーは、機械の中の幽霊で有名(って読んだことないけれど)だけど、調べてみたら「夢遊病者たち」は日本語訳されていないらしい。

そんなこんなで、偉い天文学者である著者のギンガリッチさんは、本当に誰も読まなかったのか、調べることにし、その調査の過程と結果を詳細に綴ったのが本書。

副題に「科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険」とあるように、世界各地の図書館を廻り、「天体の回転について」の第1版と第2版を探し、マイクロフィルムで撮影し、特に書き込みを調べていった。しかも1970年代から30年にわたって。執拗で忍耐の必要な誰にもマネできない調査。冷戦時代の鉄のカーテンの閉まったロシアや東欧での調査もあり、時代と場所を超えた、まさに冒険と呼んで良いだろう。

結論としては、「天体の回転について」は多くの人に読まれたということが明らかになった。本書では所有した歴史上の偉人が数多く登場する。そしてその本は今でも貴重で古書コレクターには人気となっており、だからこそ盗難が後を絶たない。オークションで5000万円で買われたこともあるのだ。
※ちょっと前の報道では2億円の値がついた。

本書で分かることは、今とは違い、本の価値は非常に高かった。大量印刷はできず、印字された紙の束が販売された。製本は本の購入者が行い、1冊ごとに装丁は異なっている。

この調査で、本は初版で500部ほど刷られ、276冊の居所が分かっている。残りは、水に沈んだり、腐ったり、虫に食われたり、燃やされたり、トイレットペーパーになったのだろう。

この本を読んで知ったことをメモしておこう。

ギンガリッチさんの調査には、有名デザイナーであるチャールズ・イームズ(1907~78)が関わった。椅子のデザインでも有名だけれど、写真家としても知られている。コペルニクス生誕500年記念祭のイベントを手伝い、写真や装置を提供したのは、興味深い。

コペルニクスもその先人も、予測の精度をわずかばかり上げるためだけに、周転円を重ねるようなことはしなかった

とのこと。円にこだわったために産み出された周転円の思想は、今では神話になってしまっている。とはいえ、コペルニクスは真にコペルニクス的にはなれず、楕円運動を導き出すことできなかった。ガリレオと同じ(もうひとつの「世界でもっとも美しい10の科学実験」(感想文10-02)参照)。

もう一つ、ガリレオについて。ガリレオは将来のパトロンであるメディチ家のコジモ2世にホロスコープ占星術で使う絵)を作成して、かなりのお世辞をしていた。この事実は、ガリレオ・ガリレイ全集から巧妙に削除されていた。確かにガリレオホロスコープを描けることが公になっていたら、

近代科学者という彼の英雄的位置づけは確実にそこなわれていただろう。

英語には、星座や惑星に関する語彙の名残りを化石のようにとどめているものがある。

ふむ。載っている具体例は、considerとdisasterっていうのがある(他は馴染みのない単語だった)。調べてみるとconsiderの語源は、「星占いで星(sider)をよく調べる」だって。そして、disasterの語源は、dis-離れて+astero星であり、つまり星から離れることで不吉の前兆だって。知らなんだ。日本語で星に関係するものってあんまりないのかなぁ。

調査によって、「回転について」は多くの歴史的偉人の所有に行き当たることになる。メルカトル、ティコ・ブラーエ、ガリレオケプラーなどなど。宇宙論の大転換をもたらした書物を巡る冒険の書。実は、多くの人に読まれたこの本がもたらした影響は計り知れない。
 
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(感想文の感想など)

コペルニクスポーランド出身だったんだ。ポーランドにも行ってみたいな。