40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文14-52:風の中のマリア

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※2014年10月17日のYahoo!ブログを再掲

 

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プリズム以来の百田尚樹さんの小説。百田さんは色々とコントラバーシャルな話題に思い切った発言をするので、ネットで取り上げられることがあるけれど、小説は文句なく面白い。

本作は一風変わっていて、主人公はオオスズメバチだ。マリアとはその名のとおりメス。しかし、その性別は、オオスズメバチの生態と大きく関わっている。

一応、学部は農学部を卒業し、大学院は医学研究科を修了したので、バイオロジーについては詳しいと思っていたが、昆虫の世界はほとんど知らなかったことを本作を通じて思い知らされた。

染色体によって性が決まる生物がいる。例えば、哺乳類ならオスはXY、メスはXX。ヒトの場合、SRY遺伝子(Sex-determining region Y)がY染色体にあり、それが性を決定する。ニワトリは、オスがZZ、メスがZW。

学部の卒論の対象がニワトリだったので、なぜニワトリになるとXYでなくZWというのが疑問だったけれど、それは雄ヘテロ型とメスヘテロ型の違いのためだということを卒業してから知ったりした。

学部の授業で面白かったのは、性染色体で性の決定が決まらない生物もいるということ。ワニやカメは卵の孵化温度で性が決まる。当時、温暖化が進むと性別が偏るのではないかという指摘があったほど。実際に

温暖化でウミガメの性比に異変?という記事もあり、あながち過剰反応というわけでもないようだ。

性転換する魚たち(感想文09-16)で示されていたように、魚はわりと簡単に性転換する。ヒトとは異なり、性の壁は乗り越えられないほど高いというものではない(もちろん身体的な負担は大きいので、そこまで低くはない)。

さて、主人公であるオオスズメバチは、どうやって性が決まるのか。本書からセリフを引用してみよう。

「でも、私たちヴェスパには、実は性染色体は存在しないの」「じゃあ、どうしてオスとメスの性がわかれるの?」「ゲノムの数で決まるのよ。ゲノムを二つ持った個体はメスになる。一つしかないゲノムを持たない個体はオスになる。」

実際にはこういう会話をオオスズメバチがするというわけではないし、もちろん本人たちは自らの性決定機構を知っているということはないだろう。

しかし、こういった会話を通じて、読者はオオスズメバチの生態と遺伝的メカニズムを学ぶことができる。そして、オオスズメバチの行動すべてが、自らのゲノムを次世代に残す可能性を高めることを目的としていることを知り、驚くことだろう。

オオスズメバチは危険な生物で、刺されて死ぬケースは、ウィキペディアによると『有毒生物による生物種類別犠牲者数では最も多い』とのこと。毒ではなく、アナフィラキシーショックで死ぬ。ハンターハンターのポンズを思い出す。

最強の昆虫であるオオスズメバチだが、無敵ではない。

エゾカギバラバチは、オオスズメバチ幼虫の捕食寄生種だ。エゾカギバラバチが葉っぱに卵を生む。葉っぱごと卵を芋虫が食べる。オオスズメバチが芋虫を捕まえて肉団子にする。肉団子をオオスズメバチの幼虫が食べる。卵が孵化して、幼虫に寄生する。幼虫の体内から食い尽くして羽化する。なかなか気の遠くなる戦略だけれど、せっせと作った肉団子に寄生虫が入っているなんて、オオスズメバチからすると驚きだろう。

それから有名なのは、ニホンミツバチによる熱殺蜂球命名中二病っぽくて(・∀・)イイ!! しかしそんなニホンミツバチ外来種であるセイヨウミツバチにはてんで弱い。

日本の野山では、オオスズメバチニホンミツバチ、セイヨウミツバチによる奇妙な三角関係ができ上がっていると言える。

という状況になっているのだ。面白いなぁ。

他方でハチはなぜ大量死したのか(感想文09-55)に描かれた蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)という現象がある。セイヨウミツバチにとっては恐怖でしかない。原因ははっきりしていないが、欧米では大きな問題になっている。

ハチの話でずいぶんと広がったものだ。それだけこの小説が面白く、知的に刺激されたということでもある。他の小説も読んでみたい。

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(感想文の感想など)

現在、アメリカにオオスズメバチが上陸したことが話題になっている。アメリカにとって、オオスズメバチ外来種であり、ミツバチの巣箱を数時間で食べ尽くすため、アメリカ国内のミツバチの生息数減少が危惧されている。

スズメバチはガチで怖い。ハチ激取れという商品があるのだけれど、そこで捕獲されたスズメバチがガチガチと音を立てて威嚇してくる。

フマキラーさん、北米に新たな市場ができましたよ。