40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文17-35:流転の子 - 最後の皇女・愛新覚羅嫮生

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※2017年8月3日のYahoo!ブログを再掲

 

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さて、まずはこの本を読むに至った経緯を書いておこう。

今年、仕事で色々とお世話になった方が還暦を迎えた。そこでその方の還暦祝いパーティの席で、生まれ年である60年前の1957年にまつわるクイズを出すことにした。

ウィキペディアで1957年にあったことを調べていたところ、天城山心中のことを初めて知る。ウィキペディアによると『1957年12月10日に、伊豆半島天城山において、4日前から行方不明となり捜索されていた学習院大学の男子学生の大久保武道(当時20歳)と、同級生女子の愛新覚羅慧生(あいしんかくらえいせい:当時19歳)の2名が、大久保の所持していた拳銃で頭部を撃ち抜いた状態の死体で発見された。当時のマスコミ等で「天国に結ぶ恋」として報道された事件。』とのこと。

何とまあ、どえらい事件があったものだ。そんな事件の存在を初めて知り、何か関連する本がないかと思い、本書を読むに至ったのだ。

本書の主人公は、愛新覚羅嫮生(こせい)であり、慧生(えいせい)の妹に当たる。ウィキペディアでは、結婚しているので福永嫮生として載っており、『清朝の最後の皇帝にして満州国皇帝であった愛新覚羅溥儀実弟溥傑の次女』とある。

嫮生さん(親しみを込めて勝手に呼ばせてもらいます)は、1940年生まれでまだご存命である。同い年生まれは、加藤一二三津川雅彦益川敏英鳥越俊太郎志茂田景樹板東英二王貞治立花隆張本勲浅丘ルリ子リンゴ・スターC・W・ニコル麻生太郎、ペレ、ブルース・リー篠山紀信野口悠紀雄といったところ。こう並べるとまだまだお若いという感じがする。

さて、非常にか細いが、ほんの僅かに私と嫮生さんには繋がりがある。というのも父方の祖父は、満州鉄道の社員であり、戦後に命からがら満州から日本に帰ってこれたのだ。

本書を読んでまざまざと思い知らされたのが、満州から日本に引き揚げてくるのはとんでもなく大変だったことだろうということだ。非常に運が良かったとも言えるし、奇跡的とも言える。祖父が日本に戻れなければ、私の父は生まれていないし、私自身も存在していない。

戦争が終わり70年以上経つが、今日本で生を受けている人は、祖父母、曾祖父母が戦争を生き抜いたという奇跡の上に成り立っているのだ。改めて自分の命について考えさせられる。生きるというのはそれだけで尊いものだ。

私の祖父は高校生の頃に亡くなった。戦争の話を聞いたりもしたが、芋ばかり食べたとか、むちゃくちゃ寒かったとかそういう話しか記憶に残っていない。満州から引き揚げたことについてもしかしたら聞いたことがあったのかもしれないが、覚えていない。

年上のいとこからは祖父が溥儀の弟の口利きがあって、何とか帰国できた的な話をしていたが、どこまで本当なのか今となってはよく分からない。私の祖父は歴史に登場するような偉大な人間ではなく、いち満州鉄道社員である。それでももしかしたら嫮生さんの父親である溥傑と接点があったのかもしれない。

ここに描かれるのは、日本と中国、二つの国で流された血の悲しみと贖罪の思いを一身に抱え、歴史の波に翻弄されながらも、不安と閉塞感漂う「孤の時代」に絆と再生への祈りを放つ、「魂の息女」の物語である。(p.14)

本書は私自身のルーツとも関わっているかもしれないという意味からも興味深い。そして、戦争の悲惨さだけではなく、人間の強さ、絆、家族愛を信じたくなる一冊だった。

嫮生さんの人生は、波乱に満ちている。日本の降伏、満州国の解体、中国大陸での流転、日本への引き揚げ、姉の死、父との再開、結婚、出産、文化大革命日中国交正常化、父の死、母の死、夫の死、阪神淡路大震災

愛新覚羅一族は満州国崩壊とともに歴史の渦に巻き込まれ、苦難の日々を送った。わずか5歳でこの世の地獄を見た少女は、成人し、いったんは父の国に渡ったが、日本で生きる道を選び、5人の子の母として「平凡」を生き抜くという、「非凡」を貫いた。(p.427)

嫮生さんは、苦難が多い人生であったが、両親や夫だけでなく多くの人に愛され、大切にされ、幸せに生きていることが分かる。

私は、結婚し、子どもが生まれ、何かを果たしてしまったかのように思えてしまう。幸運にも戦争に巻き込まれることも、震災で大きな被害を受けることもなく、生きている。

何かを為す。私は最近、そのことを強く思うようになっている。子どもに手がかからなくなりつつある。私の人生をこれからどうするか。人生の折り返しを迎え、新たな決断をすることになるだろうか。

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(感想文の感想など)

嫮生さんは未だご健在のようだ。

現時点で新たな決断とまでは至っていない。くすぶってはいる。