40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文21-04:清く貧しく美しく

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石田衣良さんの小説。小説の感想文を書くのは久しぶりかもしれない。小説もちょくちょく読む(2020年は1冊しか読んでなかった)のだけれど、多くは出張のお供ということがほとんどで、コロナ禍で出張がなくなり小説を読む機会を喪失していた。

今回ももちろん出張があったわけではないけれど、年が開けて図書館に行って、なんとなく借りてみたのが本書だ。たまに読みたくなる作家、それが私にとって石田衣良さんだ。

タイトルは小林一三(感想文20-43)の遺訓でもあり宝塚音楽学校の校訓でもある「清く 正しく 美しく」の「正しく」を「貧しく」に変えたものだ。現代社会に生きる男女二人の物語。今、「正しさ」は「貧しさ」とリンクしている、ということだろうか。

池井戸潤さんの七つの会議(感想文14-02)にあった『虚飾の繁栄か、真実の清貧か』を思い出す。清貧という言葉が指し示すように、貧しさは清らかさとセットになりがち(されがち)であるが、正しさとの関係はどうだろうか。

非正規のアルバイトで糊口をしのぐアラサーの堅志と日菜子。それぞれに大きな変化とチャンスが訪れるが、そこでどのような決断を下すのか、が本書の見どころと言える。結末は、各自がお読みになれば良いのだけれど、自分自身と重なる部分があって、懐かしさと同時に身につまされることもあった。

私も大学院を修了後(正確にはM2だから終了前)、研究にも就職活動にもフィットしない自分自身について悩み、結局、京都を飛び出し、関東に身一つで引っ越し、小さな会社に就職した。就職したと言っても、非正規雇用で給与は少なく、その会社自体が成長する可能性もあったかもしれないが、結果的には5年後に潰れた。

そこだけを切り取ると、大変苦労したかのように思われるが、そうではなく、給与は少なかったけれど、本を好きに会社の経費で買ってくれたし、わりと自由に勉強することができたし、多くのことを学ぶことができた。給与額以上の面で私個人に投資いただいたように解釈できる一方で、会社が何か価値を生み出すことに大きく貢献できなかったことは歯がゆくは思っている(が、そこまで求められていたわけでもないだろうというのも正直なところ)。

その後、大きな組織に転職し、幸運にもその会社で非正規雇用から正規雇用に転換することができ、安定したポジションに就き、そりゃあ仕事で苦労や不平不満はあるけれど、少なくとも「貧しく」はなくなった。

とはいえ、貧しいとまでは言わないまでも、決して裕福な生活ではなかった。家賃5.5万円のアパートで2年ほど暮らし、更新費用を節約するため、4ヶ月くらいは彼女の会社の借上げマンション(女性のみ入居可)にこっそり同棲し、結婚してから家賃8万円のアパートに引っ越した。妻が正社員採用だったので、妻が世帯主状態の時代だった。

将来に不安がなかったといえば嘘になる。でも若かったのだ。体力があり、そして何より、未来があった(あると信じられた)。20代後半に差し掛かろうとしていた当時の私は、非正規雇用で、実質的に妻に養ってもらっている状態であっても、知的に刺激的な毎日を過ごせることが本当に幸せだった。

しかし、そんな幸せな時代は長く続かなかった。妻がうつ病になったのだ。現代病とも言えるが、過労とストレスで稼ぎ頭の妻の精神状態が限界を超えてしまったのだ。と同時に私の会社がいよいよ潰れそうだなという雰囲気になり、さらに私の母親が癌を再発した。不幸が襲いかかってくる人生最大のピンチを迎えた。

クライアントが私のような人材を求めているということで、転職に成功し、給与が増えた。家賃12万円の家に引っ越し、住環境を変えた。そしてずっと前から望んでいた妊娠に至り、妻は身体の変化が精神の変化をもたらすのか、うつ病を克服した。そして私の母は孫を見たい一心で元気を取り戻した。一気に逆転した気分だったが、本当に幸運だったと今でも思う。

完全に小説の話から脱線して自分語りをしているが、まあ許して欲しい。

私には不安定だった時代がある。就職活動を早々にリタイアし、新卒のゴールデンチケットを手放した。そういう選択をしたのかもしれないが、本書の堅志のように「逃げた」だけかもしれない。両親は何も言わなかった。そのことには感謝している。当時付き合っていた彼女(=今の妻)は、私を追いかけ関東まで来てくれた。彼女と出会えたのも、付き合いが続いたのも、結婚できたのも幸運だった。

多くの幸運に助けられたが、あの時代があったことが、私の強さになっている。

付き合っている時間を含めると20年以上経つが、妻とは今でも仲が良い。本書を読んだ後、何だかいつも以上に妻に優しく接するようになった。