40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文24-04:六人の嘘つきな大学生

こちらも会社の後輩から借りた小説。スペイン出張のお供に持って行った。

著者は浅倉秋成さん。本作は実写映画化の予定とのこと。

就活×ミステリになるだろうか。極めて計算高くロジカルに仕組まれた作品で、大変技巧的であって、私の好みだ。映画だとどう表現されるのか、それも気になるところ。

本書ではタイトルのとおり6人の大学生が登場する。

嶌さんは勤勉で、袴田くんはいつも明るく、矢代さんは誰よりも視野が広く、森久保くんは本当に優秀、そして九賀くんのリーダーシップは類い稀なものがある。(47)

小説の前半パートである就職試験では、波多野祥吾を中心に描かれ、波多野くん、蔦さん、袴田くん、矢代さん、森久保くん、九賀くんの6人は最終面接にまで残り全員の内定を目指すチームとして就活に挑むが、急遽、ルールが変更され採用者が1人になると告げられ急転する。

採用のための最後のディスカッションで、それぞれの嘘が暴かれていくという展開。

ところがこれで物語は終わらない。後半パートのそれから、つまり1人だけが無事に内定をゲットし、残りは別の会社で働くその後が描かれる。それぞれの嘘について、さらなる真実が待ち受けている。

そこにあるのは人事面接程度のことでどこまでその人を分かるのか、実際には分かった気になっているだけでほとんどその人のことなんてわかっていないじゃないかという痛烈な風刺でもある。

将来的に何をやらせるのかは決まっていないけど、向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ』日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になる馬鹿げた儀式(292)

就活小説と言えば、石田衣良さんのシューカツ! (感想文09-28)朝井リョウさんの何者(感想文15-09)を思い出す。私は結構早い段階で就職活動の茶番さに嫌気が差して撤退したわけだけれど、ほんの少しだけれど経験したあの就職活動の異様さと不気味さは小説のテーマにフィットしている。

多くの人が経験し、違和感を持ちながら奮闘し、例え希望の会社に就職できたとしても、拭い切れないあの言い知れない気持ち悪さ。成人になったらバンジージャンプするみたいな、コミュニティに属していない人からすると理解しがたい風習、つまりは日本の奇祭と言っても過言ではない。

解説から引用しよう。

読者の中では話が進むほどに、登場人物一人一人に対する印象が二転三転したはずだ。他者の言動のひとつをピックアップして、その表面だけを見てジャッジすることなんてできない、ということを体感したのではないか。(356)

本当にそうだなと強く首肯する。人事面談しても繰り返し1on1面談しても、その人のことを理解した気になるのは大間違いだ。

繰り返すが本書の路線は私好み。浅倉秋成さんの別の小説も是非読んでみたい。