40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-53:医薬品クライシス―78兆円市場の激震―

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※2013年9月1日のYahoo!ブログを再掲。

 

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新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち(感想文08-66)によれば、薬開発はドラマチックで、そして成功確率が極めて低いとのことだ。医薬品業界はその特殊なビジネスモデル(投資が大きく、当たれば大儲けだが、ほとんど当たらない)と画期的な医薬が生み出されにくくなっている状況によって、大きく変化しつつあることを活き活きと描いていて、あんまり業界のことを知らない私でも引きこまれていった。

医薬は、身近に手に入る存在でありながら、人間の生命システムを直接左右する能力を本質的に持った、数少ない商品だ。

そのとおりで、あんなに小さな化学物質の集積が、人間の生命システムに働きかける。ヒトが複雑な化学反応により姓名を維持しており、そこに絶妙に作用し、病気の改善に手助けをしてくれる。そして、これは生命システムへの影響という生物学的な反応だけでなく、人生をも左右する大きな機能を持った商品だとも言える。

本書では、身近ではあるが存外知らない医薬とその市場や業界についてコンパクトに書かれている。気になった箇所を挙げておこう。

現在最大の医薬は高脂血症治療薬リピドール(ファイザー)で、そのピーク時の売上は全世界で何と年間1兆6000億円にも達した。

そんなに売上があるんだ。製薬企業は本当に少ない医薬でその巨体を維持している。そこで研究開発費を稼ぎ、次の商品を生み出すことになるのだが、なかなかうまくはいかない。売上はずっと維持されるわけではない。特許の権利満了により、ジェネリックが参入し、独占は崩れる。

トルセトラピブ開発中止の発表からほとんど間をおかず、ファイザーは全世界の従業員の1割に当たる、約1万人を削減するという大規模なリストラ計画を発表した。日本の研究所も閉鎖、日本法人全体では1200人が失職の憂き目を見た。

脂質降下薬で期待されていたトルセトラピブは、心血管事故が起きたために開発が中止された。次の主力商品として期待されていたため、その反動もまた大きい。1万人もクビが切られる。こういうことは製薬業界では決して珍しくない。本当にごくわずかな商品が従業員を養っており、失敗した時の衝撃は凄まじいものがある。

現在、医薬を自前で新しく創り出せる能力のある国は、日米英仏独の他、スイス・デンマーク・ベルギーなど、世界でも10カ国に満たない。

へぇ。医薬を作るためには技術力が必要で、製薬会社のある国はそれだけの人材や基盤があるってこと。

面白いことに、眠気を引き起こすという抗ヒスタミン薬の副作用を逆手に取り、睡眠改善薬として用いるケースもある。

商品名でいうとドリエルがそうらしい。薬を飲んで眠くなるというのを、逆転の発想で、眠り薬として活用する。なるほど。

アステラス誕生の際、実際には山之内と藤沢に加え、2位の三共あるいは4位のエーザイも加わった3社合併を検討していたことは、業界内では周知の事実だ。

日本の製薬会社はたくさん合併した。山之内製薬藤沢薬品工業が合併し、アステラス製薬になった。てっきり山ノ藤とか藤ノ内になると思っていたのに…。それ以外にも大日本製薬と住友製薬が合併し大日本住友製薬、三共と第一製薬経営統合第一三共田辺製薬三菱ウェルファーマが合併し、田辺三菱製薬となっている。アステラスに三共やエーザイも加わる検討をしていたんだ。もう少し前は銀行の合併が多く、最近だと電機メーカーがその動きがあるのかな。

医薬とは、病気に関わっているタンパク質に結合し、その働きを節約することで症状を和らげる物質なのだ。

ということで、これまでの医薬は小さい。大きなタンパク質にちょこっと張り付く感じ。巨大なクジラにくっつくコバンザメみたいな感じ。

抗体は大きなタンパク質であるため細胞、まして中枢系などには入り込めないから、対象となる疾患は特殊なガンやリウマチ、一部の感染症程度に限られてくる。(中略)今のところ抗体医薬は低分子医薬に完全に取って代わるようなものにはなりえない。

抗体医薬はでかい。クジラを襲うシャチくらい。でも大きいぶん、使い勝手は悪い。

12年世界のブロックバスター 売上トップに抗体医薬の抗リウマチ薬ヒュミラによると『抗体医薬はランキングトップ10製品中に5製品がランクインしており、抗体医薬が企業業績に大きく寄与し、存在感が増していることも確認された。』とあり、抗体医薬は主力商品になりつつある。

それでも抗体医薬の出番は限られている。しかし、低分子薬が新たに誕生するかというと難しいだろう。製薬企業にとっては難しい時代になっているのかもしれない。

筆者は2010年問題の原因について、何人かの薬理専門家に話を伺ったが、この「モデル動物の不備」を指摘する声は多かった。

最近、新しい薬が生まれていない。モデル動物は研究の基盤となるが、そういった地味だけど大事な研究とは呼びにくい事業に税金は投入されにくい。モデル動物って作り出すのは大変だけれど、それを維持し、必要とする研究機関や企業に分配するというのはさらに大変なのだ。

自分の思いつきや、他の研究者との話し合いから出てきた新しいアイディアをこっそりと試してみる、通称「闇実験」はしばしば新しい研究テーマの母胎となってきたが、成果主義はこの文化を廃れさせてしまった。

こういう主張を他の本でも目にした記憶がある。イノベーションは「闇研究」の成果 根性論に縛られる日本の経営者という記事があった。個人的にはこちらを支持したい。成果主義が闇実験という文化を廃れさせたのかもしれないが、自由度のなさがイノベーションを妨害しているかというとどうだろう。

(画期的な新薬を世に送り出した研究者)に共通するのは、「何としても薬を生み出す」という、どこか狂気さえ感じさせる異様なまでの信念であった。

これも分かる気がする。

イノベーションとは何か(感想文13-40)では『別のフレーミングをする変人が、最後まで自分の思い込みを実行できる環境をつくること』と書かれている。異様な信念、思い込み、あるいは狂気。人間とは不思議でこういう人たちが世界を変えるのかもしれない。

未だに悩んでいるのは、イノベーションを生み出す確率をどうやって高めるかということだ。イノベーションを狙って生み出すのは無理だろう。プレイヤーはある種の狂気を宿した人間で、コントロールやガバナンスにそぐわない。他方で、システマティックな投資がイノベーションを生み出すという考えにも賛同する。

うーむ、分からない。イノベーションをどうやって実証的に分析するのか。もうちょっと勉強したい。

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(感想文の感想など)

2018年に世界で最も売れた薬にあるように、関節リウマチの抗体医薬品である「ヒュミラ」が約255億ドル(2.7兆円)の売上となっている。リピドールなんて目じゃない売上額だ。とはいえ、特許切れが迫っているとのこと。

なお、同記事では、世界の医薬品市場は1兆962億400万ドル(117兆2938億円)で、市場はがん、糖尿病、自己免疫疾患となっている。

新型コロナウイルスの治療薬とかワクチンが開発されたら、これまたものすごい売上になることだろう。