40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-40:イノベーションとは何か

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※2013年7月3日のYahoo!ブログを再掲。

 

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ネットでは有名な池田信夫さんのご本。ネットでの言説は読んだことがあったけれど、こうして書籍を読んだのは初めて。本書はイノベーションについて分かりやすく説明してくれている。

仕事上、イノベーションについて考える機会が多く、これまでも色々と本を読んできた。本書は特段の目新しさはないかもしれないけれど、日本人が日本の具体的な現象について踏み込んでいるので、より現実味を持つことができて面白い。

気になった箇所を挙げておこう。

顧客の要望を聞くマーケティングで成功した商品はほとんどない。それは顧客は既存の商品を前提にして生活しており、その枠を超えるものを開発するインセンティブがないからだ。

イノベーションのジレンマ(感想文10-29)でも似たようなことが書かれていた。顧客の要望を聞いて開発すると持続的イノベーションになってしまい、気がつけば破壊的イノベーションに市場を奪われてしまう。

必要なのは、既存の組織のなかで「発想を転換する」ことではなく、まったく別のフレーミングをする変人が、最後まで自分の思い込みを実行できる環境をつくることである。

本書のキーワードの一つがフレーミングだ。自己解釈で説明すると、何か物事を判断する際に一定の範囲(フレーム)があって、その範囲を超える問題については対処できないし、かといって無限に広げることもできない。組織の中だと同じフレームで考えてしまって、結局イノベーションにつながらないってこと。

イノベーションは多くの場合、既存の技術を改良する持続的イノベーションを破壊するのではなく、フレーミングを変えて新しい市場を発見するのだ。

フレーミングを変えるという理屈はわかるけれど、それを実行するのは難しい。人間は固定観念から逃れることは難しいし、勝手に文脈を読み取ってしまうからだ。だからこそ変人が必要で、組織においては鼻つまみ者なのだろうけれど、その組織の発展には欠かせないので、ある程度自由に野放しにする度量が必要なのかもしれない。

科学の理論が帰納から生まれるのではなく科学者の直観から生まれるように、イノベーションを生むのも統計や分析ではなく才能だから、それを作り出すハウツー的な方法はない。

まあ、きっとそうだろう。そう考えると科学者に自由を与えるとイノベーションが起きるのかもしれない。まあ、結局はビジネスにならないとけいないので、科学者にとって最適な環境は、イノベーションを起こす変人にとっても良い環境になりうるってことかな。

ここからは、〈反〉知的独占(感想文13-17)にも関係する知財権の話題。

著作権は、他人の複製を禁止し、その表現を拘束する点で、憲法に定める自由を侵害するものであり、その範囲は最小限度に抑制すべきである。

特許権について本書は深堀りしてなくって、著作権について紙幅を割いていた。著作権が幅を利かせすぎることへの非難は少なくない。

著作権とは、政府公認の独占なのだ。こういう政策は有害であり、例外的に許されるのは電力やガスなどの「自然独占」の場合だけだ。

なかなかに辛辣なご意見で、私も同調しないでもない。政府公認の独占といえばそうだけれど、条約もあるので、なかなか日本だけが著作権による独占(比較的緩いけれど)を止めるってわけにもいきそうにない。一度作り上げられた制度を壊すのは既得権益との戦いがあり、時間がかかるだろう。

シュンペーターは、新古典派経済学の想定しているように無数の企業が限界費用と等しい価格で商品を売る「完全競争」では、イノベーションは生まれないので、一定の独占は必要悪だと主張した。この仮説は多くの経済学者が実証的に検証したが、その結果は否定的なものが多く、「シュンペーターの逆説」と呼ばれる。

こちらも〈反〉知的独占(感想文13-17)で言われていることと同じだ。独占がなぜダメか。その理由は死荷重を生み出すからだ。独占できないから研究開発できないというのは、実証的には示されていない。この点は、今後さらに議論が活発になるだろう。

それからその他のこと。

ガラパゴスは「変化に敏感に対応する進化」ではなく、「変化の圧力が弱いために生き残った特殊な進化」なのだ。そのひ弱な種が、(中略)強力な「外来種」との競争に生き残れるかどうかはわからない。

ガラパゴス携帯、略してガラケーだなんて言われていて、ずーっと違和感があった。日本で独自の進化を遂げたので、海外では売れないという話だけれど、それってどこがガラパゴスと関係があるのか。独自の進化は何も悪いわけではない。新婚旅行でガラパゴスに行ったことのある私からするとちょっと見過ごせないのだ。

ところが池田さんは違った視点を示してくれた。「変化の圧力が弱いために生き残った特殊な進化」というのだ。変化の圧力っていう言葉については違和感はあるけれど、まあいい。外来種に弱いというのは正しいだろう。

ガラパゴス諸島には固有種がたくさんいるけれど、動物の楽園というわけではない。島が新しいこともあり、緑は少なく、火山の噴火も耐えない。動物が暮らしていくのに必ずしも良い環境というわけではない。

でも、のんびりしたイグアナが生きていけるように、外敵が少ないし、食べ物を奪い合う競合相手もいない。そんなところにタフで食欲旺盛な別の動物が入り込んだら生き残れないかもしれない。

日本の携帯電話はどうだろうか。ガラケーは意外と生き残っている。iphoneによって駆逐されたというわけでもない。とはいえ、海外に持っていっても全く生き残れない。動物園とか博物館のような珍しいものとして展示されるのがお似合いだろう。

うーん、ガラパゴスになると饒舌になってしまう。本書はイノベーションについて関心のある人は一読の価値がある。表現がやや過激なところがあるけれど、それは個性というか持ち味として読者に受け入れてもらうしかないかな。

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(感想文の感想など)

イノベーションを起こすやり方についての言説は、①戦略的に起こせる、②一部の天才が起こす、③起こしやすい環境は作れる、の3つにざっくりと分けられると思う。もちろん、イノベーションなんて存在しないとか、偶然でしか起きないとか、他にもあるけれど。

どれも正解なのかもしれない。一部の天才(あるいは変人)を一定数、許容する社会を作って、自由に研究させて、新しい市場を作り出していくという戦略を考える。

どうなんだろうか。イノベーションを起こしたいという熱意のある人はいるのだろうか。そうではなくて、世界を変えたいとか、本質を知りたいとか、そういうことに熱を持てるんじゃなかろうか。それが結果的にイノベーションと呼ばれるようになったのではないだろうか。