40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-31:完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者

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※2010年5月10日のYahoo!ブログを再掲。

 

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解けたら100万ドル!というテレビ番組の企画のような数学の問題がある。

これらは、ミレニアム懸賞問題と呼ばれ、アメリカのクレイ数学研究所が2000年に発表した7つの賞金首だ。以下が、その問題。

  • P≠NP予想
  • ホッジ予想
  • ポアンカレ予想
  • リーマン予想
  • ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題
  • ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ
  • バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想

タイトルを見ても何のことかさっぱり分からない。内容を読んでも一層分からないだろう。

この100万ドル問題の一つを解いてしまった人がいる。それが本書の主人公であるロシア人数学者のグリゴリー・ペレルマンだ。

ペレルマンポアンカレ予想を解いた。驚天動地だった。なぜなら、彼がまだ数学の世界で生きていることを知っている人は少なく、そしてポアンカレ予想に取り組んでいることをほとんど誰も知らなかったからだ。

比類なき天才であり、だからこそペレルマンは孤独だった。

しかし、本当の驚天動地はここから始まる。本書では、

グレゴリー・ペレルマンというそのロシア人数学者は、査読つきの専門誌に論文を発表しなかった。そして、ほかの数学者たちが自分の証明を綿密に分析した論文を、きちんと検討することはおろか、それについて論評することすら拒否したのだ。世界中の一流大学から降るように舞い込んだポストの申し出もすべて断った。2006年には、数学における最高の栄誉であるフィールズ賞が授与されるはずだったが、彼はこれも辞退した。そしてそれ以降、ペレルマンは数学者ばかりか、ほとんどすべての人と連絡を絶ってしまったのである。

解けたとする論文をウェブ上のアーカイブに載せた。ほかの数学者がこれが正しいかどうか検討したが、それについてコメントはしない。フィールズ賞も辞退。そしてほぼ完全に知り合いとの連絡を絶った。そして、100万ドルが贈呈されることになるが、これも貰わないと言われている。

孤独な天才といえば聞こえはいいが、痛々しいまでに厳格な規律が、彼自身を成立させている。

本書は、そんなペレルマンの半生を綴ったものである。

本書の特異なところは、著者はペレルマンと会ってはいない(会ってくれなかった)ということだ。ペレルマンに関わった人たちにインタビューするなど綿密な取材を通じて、ペレルマンという人物を外から明らかにしていっている。

ペレルマンユダヤ人であり、ソ連で差別を受けた。ところが、恐ろしいことに本人は差別されたことを微塵も認識していなかったようにも思える。この天才がユダヤ人という理由だけで、不当に扱われるのは間違っていると考え、あらゆる手段を尽くして、彼の未来を輝かしいものにした。

周りはペレルマンを理解しようとした。それは彼の人格だけでなく、解き明かした数学についてもだ。しかし、ペレルマンは理解しようとする人間を理解できなかったように思われる。なぜ理解できないのか、理解できないのだろう。

実をいえば、ペレルマンの証明をめぐる物語の中でもっとも驚くべきことのひとつは、数学者としての野心を棚上げにして、ペレルマンプレプリント三部作を解読し、解釈することに全力を尽くした数学者が何人もいたことだろう。

凡人は天才に奉仕してしまうのだ。

ペレルマンが「証明した」といったのは、やはり本当だった。それについて疑われたり、別の者が最終的な証明を主張したり、メディアが面白く取り上げたり、そういうことにペレルマンは怒りを顕にした。

そして、高潔な天才は姿を消した。

本書を読んで、本当にあるべき学問の姿を見る気がした。そして、その姿は現代では保持することは不可能ということも感じた。

栄誉や名声や社会貢献や政治から完全に隔絶した研究組織は成立し得ない。孤独な天才だけが、健気にも実践していた。その姿はもう凡人であるぼくたちには見えないのかもしれない。

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(感想文の感想など)

最近の数学上の未解決問題が証明されたとして話題になったのが、ABC予想だ。これもさっぱり理解できていない。まだ証明が確定したわけではないようで、もうしばらく時間がかかるだろう。

ちなみにペレルマンについて調べてみたけれど、相変わらず音信不通のようだ。