40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文20-38:水素エネルギーで飛躍するビジネス

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2017年12月26日付で再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議において「水素基本戦略」が策定された。同戦略では、

本戦略は、2050年を視野に入れ、水素社会実現に向けて将来目指すべき姿や目標として官民が共有すべき方向性・ビジョンであるとともに、その実現に向けた行動計画を取りまとめたものである。

と記されており、30年後に水素社会を実現させるための戦略が書かれている。

私にとって水素社会の到来を予感させる出来事といえば、トヨタの水素自動車MIRAIだ。2014年にトヨタ本社に行く機会があり、そこでFCVコンセプト・カーMIRAIの実機展示を見ることができた。当時はまだ一般販売前ということで、たいそう話題になっていたのを覚えている。私も物珍しさにスマホで写真を撮った。

あいにく自動車全般に興味のない私は、FCV(燃料電池車)とEV(電気自動車)の区別もついていなかった。それどころか、水素と燃料電池の関係もわかっていなかった。なんとなく、化石燃料で動く既存の自動車、電気で動く近未来の自動車(あるいは化石燃料とのハイブリッド)、水素で動く未来の自動車くらいにしか認識していなかったのだ。

本書は、水素によるビジネスの最前線(といっても出版当時の2018年だが)を詳細に描いている。水素や水素エネルギーだけでなく、水素の代表的なアプリケーションである燃料電池、さらには水素の製造、輸送・貯蔵、エネルギーキャリアとしての側面を丁寧に説明し、それらの技術的な課題とビジネスチャンスとプレイヤーである企業の研究開発状況を解説している。この本1冊で水素に関わる基本的な知識と技術と企業が手にとるようにわかる。

改めて考えてみると、水素って何だろうか。言わずとしれた、原子番号1番の元素だ。少しややこしいのは、水素と言った場合、それが水素原子(H)なのか、水素分子(H2)なのか、水素イオン(H+ *プロトン)なのか、多義的であることに注意しておきたい。この感想文では水素分子をイメージしながら書いている。

そして水素はとても身近な物質だ。特にヒトを含む生物は水(H2O)がなければ生きることはできないし、自分自身の60%以上は水分だ。水は全生命にとって必要不可欠な物質である。そんなとても身近な水から水素を作ることができるし、その水素を使えば電気を得ることもできる。

なぜ水素が話題になっているのだろうか。気候変動の原因となる二酸化炭素の排出をなるべく減らしたいからだ。化石燃料を燃やして水を蒸気に変え、タービンを回してその回転運動を電気に変換する。これがざっくりした火力発電の仕組みだが、化石燃料を燃やすと二酸化炭素が発生してしまう。

水素には、化石燃料の代替という以外に、「エネルギーキャリア」という、もう一つの重要な役割があります。(中略)水素は、単に自動車にとどまらず、産業・社会全体に巨大転換をもたらす可能性があるのです。(p.3)

水素と酸素を反応させると電気を得ることができ、しかも水しか生み出さない。だからクリーンだと言われる。しかし、大事なポイントはもう一つあって、天候に左右されやすいため発電が安定しない再生可能エネルギーと組み合わせると、余った電気を使って水を電気分解しておけば、(エネルギーのロスはあるけれど)得られた水素を貯めておくことで、実質的に電力を溜め込んで置くことができるのだ。

再生可能エネルギーでたくさん電気を作れる国があれば、それを水素に変換して、その水素を他国に輸出するというビジネスが生まれる。石油や液化天然ガスがタンカーで運ばれるように、水素が運ばれる未来はそう遠くないかもしれない。

水素エネルギーの利用の仕方で最も一般的なのが燃料電池です。燃料電池は「電池」というネーミングから乾電池や蓄電池のように電気を貯めておく装置を連想しがちですが、水素と酸素を電気化学反応させて電気を作る「発電装置」です。(p.96)

燃料電池は確かに発電装置であるが、水素≒電気という解釈をすれば、電池という側面もある。水素ステーションも巨大な電池で、実態的に電力を貯めているに等しい。また燃料電池車もまた電池と言える。電気は便利だけれど、電気エネルギーのまま貯めることはできない。電気を軸に作られていた社会を、水素を軸にした社会(まさに水素社会なのだけれど)に変えていくと、社会やまちづくりそのものを根本的に見直すことになるだろうし、これが新しいビジネスを生みだしていく。その覇権争いがグローバルに激しくなっていくだろう。

水素には化石燃料にないメリットがあるが、エネルギー効率とコストの面ではまだ太刀打ちできてはいない。しかしながら、気候変動による自然災害が毎年のように起こり、プラネタリー・バウンダリー(感想文20-16)のような退っ引きならない危機的状況を勘案すれば、研究開発と同時並行で実証と実用化を進めていく必要があるだろう。

一方で、水素が環境問題を解決する起死回生の一手になるかといえば、懐疑的である。有効な一手になることを期待しているが、CCUやクリーンミート(感想文20-20)などと複合的に取り組まないと全然、間に合いそうにないだろう。