40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文23-03:新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突

本書は2022年に読んだのだが、仕事の忙しさにかまけて感想文を書けていなかった。感想文を書けてなかったのでノミネートできなかったが、本書は2022年に読んだ本で最も面白く刺激的だった。

世界の資源地図は劇的に変化している。本書はウクライナ紛争以前に描かれているので、その影響は記されていないが、ロシアがウクライナに攻め込む可能性があったことが読み取れる。急に戦争が起きたとばかり思っていたが資源の観点からは十分に予見されていたのだ。

まず最初に強調しておきたいのは、シェール革命だ。

シェール革命は世界のエネルギー市場を激変させ、世界の地政学を塗り替え、米国の立ち位置を変えた。シェールオイルシェールガスは、21世紀の現在までで最大のエネルギーイノベーションであると言える。<中略>米国はシェール革命の結果、石油と天然ガスのどちらにおいても、ロシアとサウジアラビアをいっきに抜いて、世界最大の生産国になった。現在では世界屈指の石油と天然ガスの輸出国でもある。(p.2)

シェールオイルシェールガスは、21世紀の現在までで最大のエネルギーイノベーションである。なな、なんだと!?アメリカはシェール革命によって石油と天然ガスの両方で世界最大の生産国になっているのだ。

しかし、二酸化炭素を排出する化石資源にいつまでも頼るわけにはいかない。

わずか10年ほど前まで世界は「ピークオイル」、つまり石油の産出がいつ底を突くか、を心配していた。今、関心は「石油需要ピーク」、つまり石油の消費はいつまで増え続け、いつ減少に転じるのか、に移っている。(p.6)

私が小学生の頃には大人になったら石油が枯渇してしまうのだと信じていた。しかしいつまで経ってもいくら使っても石油はなくならない。そうしてゼロエミッション、脱炭素社会、脱化石燃料へと時代は転換していく。

とはいえ、すぐに化石資源依存がなくなるわけではない。アメリカが生産国となり、各国に影響を及ぼし始める。

米国のシェール革命の影響はメキシコにまで達している。<中略>2019年、パイプラインで米国からメキシコへ送られた天然ガスの量は、米国のLNGの総輸出量を上回った。メキシコのガスの総供給量の60%、ガソリンの総供給量の65%が米国からの輸入でまかなわれている。これが北米のエネルギー統合の新しい地図の一画だ。(p.57)

著者はメキシコの現大統領AMLO(アムロ)に辛らつだが、それは置いておこう。メキシコのガス、ガソリンの60%以上はアメリカからの輸入に頼っている。メキシコの石油生産能力が低下しているのも大きく影響している。さらに

米国のシェールガスが登場した。すると、まず、米国でLNGの輸入が不要になり、その結果、輸出はLNGの一部を欧州に振り向けるようになった。さらに、米国のLNGの輸出によって、欧州で市場競争への移行が加速した。米国の天然ガスは他国のLNGとともに、ロシアの天然ガスと真っ向からぶつかり合った。欧州の買い手には今や複数の選択肢があった。これはエネルギー安全保障の要諦である供給の多様化を意味した。(p.79)

アメリカのシェールガスがロシアの天然ガスの競合として登場し、欧州の買い手には選択肢が生まれた。天然ガスの供給の非政治家が達成されたのだ。これでみんな幸せだねとならない。

ウクライナはもはや直接はロシアの天然ガスに依存しておらず、スロバキアハンガリーポーランドから、ロシア産か非ロシア産かの区別なく、天然ガスを輸入している。加えて、国内産の天然ガスで国内の総需要の約3分の2をまかなっている。その割合は今後さらに高まりつつある。ウクライナはヨーロッパのどの国よりも多くの天然ガス資源が眠っている可能性があるからだ。(p.134)

ロシアがウクライナに攻め入った理由の一つが見えてくる。ウクライナには資源があるのだ。それだけではない。ウクライナ天然ガス会社ブリスマにバイデン大統領の息子ハンター・バイデンが取締役を務めている。何がどうなって戦争が起きて、ここまで長引いているのか。本当のことが分かるのはもっと後になってからかもしれないし、永遠に闇の中かもしれない。

世界で電化がどんどん進行しているが、それは電力供給の信頼性と予測可能性を保つことがますます必要になっていることも意味する。(p.460)

電力危機が取り沙汰され、実際に電気料金が高騰し、阿鼻叫喚の事態となっている。6月から東京はさらに30%近く値上げするとアナウンスされ、さらに悲惨な状況になりそうである。原発の再稼働ができない以上、電気は足りず、価格を上げてコントロールするほかない。

地図は直線的に進む未来を保証するわけではない。シェール革命も、2008年の金融危機も、アラブの春も、2011年の福島の原発事故も、電気自動車の復活も、太陽光のコストの急落も、世界的な大流行を引き起こす感染力の恐ろしく強いウイルスの出現と経済の暗黒時代も、米国の政治を揺るがした2020年の大規模な抗議行動も、予期せざるものだった。(p.494)

現在進行形で地図は大きく変動している。本書の発表以降、ウクライナ紛争が起き、そして予想外に長引き、ペロシ米下院議長の台湾訪問により台湾海峡の緊張が高まり、さらに半導体を軸に米中対立は深まっている。

よりクリーンなエネルギーを求める一方で、地球環境に負荷をかけるような行動を自制できないでいる。欲望と経済成長の強いリンクは断ち切れず、破壊と採掘のサイクルは止まらない。

現代は本書の副題にあるようにエネルギー・気候変動・国家の衝突の真っただ中にいる。そこに加えて計算能力、つまりは計算機科学(HPCにおける半導体の微細加工技術、省エネ化、アーキテクチャ開発などと量子コンピュータ開発)と計算科学が鍵となってくると私は考える。

AI、デジタルツイン、ドローン、自動運転、弾道ミサイル防衛、電力需給調整、医薬品開発、ものづくり、防災減災など、計算能力は各国が必須の基幹技術であり、それを担うスーパーコンピュータは基盤技術となっている。

「新しい戦前」という言葉が登場するほど、産業と軍事が不可分になりつつあるが、いきなりミサイルをぶっ放しかねないどこかの国はさておき、弾道シミュレーションは当然で、様々なシミュレーションなしに戦争を始めることはできないだろう。

戦争に最先端の高度な技術が投入され、さらに高度な技術開発のきっかけになる。人間の能力を戦争のために使うのはとち狂っていると思うのだが、こうして現実の歴史は動いている。残念ながら。高い計算能力とその基盤が攻撃力にも防衛力にもなりうる。

そういった視点で改めて考えると、デジタル化やデジタルトランスフォーメーションがいかに重要かつ、まだまだ視野が狭いのか思い知らされる。

世界の計算地図について誰かまとめてくれないかしら。結構面白いテーマだと思うな。