タイトルのインパクトが凄まじい。科学少年の心を震わせる「宇宙」と「恐竜」の掛け合わせなのだ。宇宙と恐竜にどういう関係があるのだろうか。恐竜は宇宙から飛来した!?のではない。宇宙規模の減少によって恐竜は絶滅したのだ。
著者はリサ・ランドールさん。著名な理論物理学者だ。『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』が話題となった。私は読んだないのだけれど。
たまに宇宙の本を読みたくなる。そして読後はいつも途方に暮れる。物質のすべては光(感想文10-32)を思い出す。「水素とか酸素とかそういう普通の原子は、宇宙全体で見たら5%でしかない。で、残りの95%はというと、なんとダークエネルギーとダークマターでできている」のだ。でも、
私たち物理学者がぜひとも解き明かしたいと思っている謎は、ダークマターが実際のところ何でできているかだ。それはなんらかの新種の粒子なのだろうか。もしそうなら、その粒子にはどんな性質があるのだろうか。重力相互作用をするのはわかっているが、それ以外に何か一つでも相互作用をするのだろうか。(p.27)
ということでダークマターは今でも詳しくは分かっていない。そしてダークマターとダークエネルギーを一緒にしていたけれど、前者は物質で後者はエネルギーだ。
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)は物質ではない。文字どおり、エネルギーである。たとえそこに粒子などの実在の物体がなくとも、ダークエネルギーは存在する。宇宙に広く行き渡っているが、通常の物質のように寄り集まることはない。ダークエネルギーの密度はどこでも同じだ。ある領域での密度がほかの領域での密度より低いということはいっさいない。その点で、ダークマターとはまったく違ってる。<中略>ダークエネルギーは時間がたっても変わらない。物質や放射と違って、ダークエネルギーは宇宙が膨張しても希薄にならない。<中略>このため、物理学者はしばしばこのエネルギーを「宇宙定数」と呼ぶ。(p.34)
ほらな、わからんやろ。超絶有名なアインシュタインの特殊相対性理論の方程式E=mc²によって、エネルギー=物質って思っていたけれど、ことダークマターとダークエネルギーについてはそうではない。そもそも両方とも正体不明なのだから仕方ないのだけれど。
高校生の時だったか、ハッブルらが発見した宇宙膨張の話を聞いて、世界の在り方が根底から揺さぶられた。固定的だったイメージの宇宙が今も膨らみ続けている。恐ろしくて恐ろしくて仕方なかった。この恐ろしい事実にたどり着いたハッブルらの知性も恐ろしかった。
銀河が形成され、星がつくられ、その星と、星から放出されたガスとによって重元素がつくられ、その重元素の働きでさらに星が形成されていく。人間の時間の尺度ではとてもそうは見えないが、この宇宙とそこに含まれるすべてのものは、まるっきり静的とは言いがたい。進化するのは星だけでなく、銀河もまた同様なのだ。(p.113)
こんな風に宇宙を動的に捉えたことはなかった。人間が観測できる寿命からすると宇宙は永遠とも呼べる時間でゆっくりと進化し続けている。宇宙は膨張し、そして進化しているのだ。
そろそろ恐竜の話題に移ろう。私が子供の頃は恐竜絶滅にはたくさんの仮説が飛び交っていた。隕石、謎のウイルス感染症、哺乳類の台頭などなど。
2010年3月に、古生物学、地球学、気候モデル研究、地球物理学、堆積学の各分野の専門家41名が集まって、この20年以上のあいだに積み重ねられてきた衝突-大量絶滅仮説のさまざまな証拠を検討した。その結果として、チクシュルーブ・クレーターをつくったのもK-Pg絶滅を生じさせたのも、確実に6600万年前の流星物質の衝突であり、そしてその最大の被害者が、かの偉大なる恐竜だったという見解に落ち着いた。(p.295)
ほへぇ、知らなんだ。今では流星物質の衝突が恐竜絶滅の原因であることが定説になっている。ではなぜ流星物質が地球に衝突するのか。本書の重要な仮説へとつながっていく。
本書では、過去に地球にもたらされた何度かの制御不能な大激動が、いかに地球の安定性を深く揺るがしたかを探ってきた。そうした地球外由来の激動の一つが起こったのが6600万年前で、ひょっとしたらダークマターに発端があって突っ込んできたのかもしれない彗星により、主要な大量絶滅の一つが引き起こされた。おそらくあと3000万年ぐらいのうちに、また新たな激動が起こって、同じことが繰り返されると考えられる。(p.490)
ダブルディスクダークマター(DDDM)とかホンマにそうなんかわからないけれど、そういう仮説に行きつけるのがそもそも凄まじい。
恐竜は確かに地球に数多く生息し、そして流星物質の衝突により絶滅してしまったわけだけれど、恐竜を化石として発掘し、認識された歴史は意外と浅いのだ(感想文09-35:メアリー・アニングの冒険参考)。
ダークマターの粒子が収縮して銀河を形成し、星の内部で合成された重元素が取り込まれた結果として生命が生まれ、マントルの奥深くで放射性原子核が崩壊したときに放出するエネルギーによって地球のプレート運動が引き起こされ、それによって山地が生み出された。こうした宇宙の深いつながりを、こんなにも理解していけるのかと思うと、私は人間の進歩の能力に本当に感心する。科学者が既知の世界の果てを探索するたびに、予想もしなかったようなものが姿をあらわしてきたのだ。(p.497)
宇宙と生命はつながっていく。銀河という巨大スケールから、地球の生命誕生、環境の変化まで。自然を観察し、洞察し、世界の在り方を把握していく人間の能力に感服するほかない。
空間的にも時間的にも膨大なスケールを巨視的に捉えながら、原子や生命などを微視的に捉えていく。スリリングな知の跳躍と展開。知的好奇心を揺さぶられる快感を味わえる一冊だ。