40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文23-12:半導体有事

極めて身近かつ生活に不可欠な存在であるにも関わらず、その原理や製造工程や産業構造全体を把握するのが難しいばかりでなく、凄まじい勢いで進歩し変化している。ちゃんとまとまった本を読んでみたいとかねてから思っていた。

経産省が出てきた時点でアウト…日立の元技術者が「日本の半導体の凋落原因」として国会で陳述したことを読んで、本書の存在を知り読んでみることにした。

president.jp

重要な記載がたくさんあるので、一部、抜粋してみよう。

現代の半導体を巡る争いは、半導体そのものよりも、「先端半導体製造能力」を巡る争いになっているからだ。そして、その争いは、中国が先端半導体製造能力を獲得し、かつ拡大しようとする一方、米国がそれを阻止しようとする構図となっている。さらに、米国と中国との争いの中心には、ファウンドリーの分野で世界シェア約60%を独占し、世界最先端の半導体を生産し続けている台湾のTSMCの存在がある。(p.16)

TSMC半導体専業ファウンドリーのリーディングカンパニーである。ウィキペディアによると「2022年現在、TSMCは全世界で6万人以上の従業員を擁し、2021年の売上高は568億米ドルとなった。」とのこと。売上高の桁が大きすぎてピンとこないけれど、ソフトバンクよりもやや大きいくらいか。

「2020・5・14」に、米国はTSMCの5nmの先端半導体製造技術を手に入れることになったばかりでなく、5G通信基地局で世界を制覇しかけていたファーウェイの野望を叩き潰すことに成功した。要するに、TSMCが、中国ではなく、米国側についた日であり、半導体の歴史におけるターニングポイントになった。(p.21)

2020年5月14日にTSMCは米アリゾナ州に120億米ドルを投じて、5nmの半導体工場を建設することを発表。さらに同日、TSMCは、中国のファーウェイに対して、同年9月14日以降、半導体を出荷しないことを決定したのだ。歴史的な転換点と著者は言う。

「10・7」規制における米国の狙いは、軍事技術に使われる恐れがある中国のスーパーコンピュータ(スパコン)や人工知能(AI)半導体の開発を完全に抑え込むことにある。(p.26)

そしてそれから約2年半後の2022年10月7日に米国が中国に対して、これまでとは次元の異なる厳しい輸出規制を発表。いよいよアメリカが中国の半導体産業の息の根を止めようとしている。

アメリカからの圧力もあってか、日本でも中国への対応への締め付けが厳しくなってきている。一方中国も、半導体材料の輸出を止めるなどの報復をしている。

日本の半導体は挽回不可能である。特に、TSMCが世界を席巻しているロジック半導体については、日本のメーカーは2010年頃の40nmあたりで止まり、脱落してしまった。いったん、微細化競争から脱落すると、インテルの例でわかるように、先端に追い付くのはほとんど不可能である。(p.152)

では日本はどうかというと、微細化競争からはずいぶん前に脱落しており、新しい会社を立ち上げても、技術面で最先端に追いつくのは不可能だという。かといって、日本は半導体業界でさっぱり存在感がないのかと言うとそうではない。

日本は、韓国にも、台湾にも、そして欧米にも、半導体製造装置(およびその部品)と半導体材料を供給している。装置、部品、材料、その中の一つでも供給が止まれば、韓国も、台湾も、欧米も、半導体を製造できない。そのような重要な役割を日本は担っている。(p.154)

日本企業が高いシェアを維持している装置、部品、材料がまだ残されている。しかし、これらがその地位を取って奪われない保証はないが、現段階では日本は半導体製造のカギを握っている国の一つである。

2022年に、半導体出荷額は約5635億ドルになり、出荷個数は1.1兆個に達した。<中略>世界の80億人は、平均すると年間で、138個の半導体を9608円買っていることになる。(p.246)

単純平均でこうなのだから、先進国で生活する私たちはもっと多くの半導体を購入しているのだろう。それにしても凄まじい個数だ。

そして生成AIが登場し、日本が遅れていることが露呈し、国内開発を進めるぞと大号令が発せられる。生成AIの背景には、膨大なGPUが推論や学習のために導入され、当然そのGPUには半導体が使われている。

半導体をめぐる動きは速く激しい。米中の対立が何をもたらすのか。今後も注視していきたい。